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東京地方裁判所 昭和46年(行ウ)105号 判決 1984年7月06日

昭和四五年(行ウ)第四八号事件原告

岩沢吉井

<外原告四九名、訴訟承継人二一名>

以下原告ら、訴訟承継人ら訴訟代理人

小長井良浩

葉山岳夫

藤田一伯

内野経一郎

安武幹雄

近藤勝

木内俊夫

大森明

山根伸右

近藤俊昭

山崎素男

森谷和馬

前田裕司

井上智治

北村行夫

菅野泰

大川宏

野島信正

中根洋一

長谷川幸雄

坂入高雄

金田英一

昭和四五年(行ウ)第四八号事件原告亡戸村一作訴訟承継人戸村澄江、同戸村和代両名補助参加人

戸村勝二

右訴訟代理人

葉山岳夫

森谷和馬

前田裕司

井上智治

昭和四六年(行ウ)第一〇五号事件原告亡戸村一作訴訟承継人

戸村澄江

<外原告二七名、訴訟承継人一五名>

右原告ら、訴訟承継人ら訴訟代理人

小長井良浩

藤田一伯

葉山岳夫

近藤勝

森谷和馬

前田裕司

井上智治

北村行夫

昭和四六年(行ウ)第一〇五号事件原告亡戸村一作訴訟承継人戸村澄江、同戸村和代両名補助参加人

戸村勝二

右訴訟代理人

葉山岳夫

森谷和馬

前田裕司

井上智治

昭和四五年(行ウ)第四八号事件及び同四六年(行ウ)第一〇五号事件原告訴訟代理人葉山岳夫訴訟復代理人

田村公一

長谷川幸雄

増田修

森谷和馬

前田裕司

北村行夫

一瀬敬一郎

深沢信夫

昭和四五年(行ウ)第四八号及び同四六年(行ウ)第一〇五号事件被告

建設大臣

水野清

被告指定代理人

並木茂

外七名

主文

1  別紙目録(一)記載の昭和四五年(行ウ)第四八号事件原告らの訴え及び別紙目録(二)記載の昭和四六年(行ウ)第一〇五号事件原告らの訴えをいずれも却下する。

2  昭和四五年(行ウ)第四八号事件及び昭和四六年(行ウ)第一〇五号事件のその余の原告らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一章  当事者の求めた裁判

第一節昭和四五年(行ウ)第四八号事件(以下「甲事件」という。)

第一  原告ら

1 被告が昭和四四年一二月一六日付建設省告示第三八六五号をもつて告示した起業者新東京国際空港公団の行う新東京国際空港建設事業についての事業認定処分を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二  被告

一 本案前の答弁

1 別紙目録(一)記載の原告らの訴えをいずれも却下する。

2 訴訟費用は右原告らの負担とする。

二 本案の答弁

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二節昭和四六年(行ウ)第一〇五号事件(以下「乙事件」という。)

第一  原告ら

1 被告が昭和四五年一二月二八日付建設省告示第一八二四号をもつて告示した起業者新東京国際空港公団の行う新東京国際空港第一期建設事業についての特定公共事業の認定処分を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二  被告

一 本案前の答弁

1 別紙目録(二)記載の原告らの訴えをいずれも却下する。

2 訴訟費用は右原告らの負担とする。

二 本案の答弁

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二章  当事者の主張《省略》

第三章  証拠《省略》

理由

一まず、別紙目録(一)記載の甲事件原告ら及び別紙目録(二)記載の乙事件原告らの原告適格の有無について判断する。

1行政庁の処分の取消訴訟を提起できる者は、行訴法九条の規定により法律に特別の定めがない限り、当該処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消しによつてこれを回復すべき法律上の利益を有する者に限られるべきであり、右にいう「法律上保護された利益」とは、実体法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保護されている利益であつて、当該係争利益が法律上保護された利益に当たるか否かは、当該処分の根拠とされた実体法規が当該利益を一般的、抽象的にではなく、個別的、具体的な利益として保護する趣旨をも含むか否かによつて決せられるべきものと解するのが相当である。

ところで収用法は、憲法二九条三項の「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」との規定の趣旨を受けて「公共の利益となる事業に必要な土地等の収用又は使用に関し、その要件、手続及び効果並びにこれに伴う損失の補償等について規定し、公共の利益の増進と私有財産との調整を図り、もつて国土の適正且つ合理的な利用に寄与することを目的」(同法一条)として制定されたものであるが、同法の規定する土地収用手続は公共の利益となる事業の遂行による公共の利益の増進と起業地内の土地等の所有者及び関係人の私有財産の保護との調整を図る制度であるから、同法が法的保護の対象としている個人的利益は、専ら起業地内の土地等の所有者及び関係人の財産権ないし財産的利益であると解される。

そうして、事業認定手続は、土地等の収用又は使用の要件を具体的に判断し、既に法令によつて当該事業の施行権限が付与されている起業者に対し当該事業に必要な土地等について収用法所定の収用又は使用をしうる法的地位を付与する手続であり(同法一六条)、事業認定の告示がされると起業地について土地の形質変更が禁止され(同法二八条の三)、土地調書、物件調書作成のため立入調査が認められ(同法三五条一項)、起業者に対して裁決申請権が(同法三九条一項)、土地所有者又は土地に関して権利を有する関係人に対して裁決の申請をすべきことの請求権(同条二項)、補償金の支払請求権(同法四六条の二)が認められるが、これらの効果が及ぶ範囲はいずれも起業地内の土地等に限られ、従つて、事業認定により法律上の地位に影響を受ける者も起業地内の土地等の権利を有する者のみであり、単に起業地付近に居住する者あるいは起業地外の土地等の権利を有する者には右効果が及ばないことは明らかである。結局、右事業認定の取消しを求める法律上の利益を有するのは、当該収用手続によつて土地等を収用又は使用されるおそれがある者及び関係人(同法八条三項)に限られるものというべきである。

また特措法は「土地等を収用し、又は使用することができる事業のうち、公共の利害に特に重大な関係があり、かつ、緊急に施行することを要する事業に必要な土地等の取得に関し、土地収用法の特例等について……事業の円滑な遂行と土地等の取得に伴う損失の適正な補償の確保を図ることを目的とする」ものであり(同法一条)、収用法の事業認定を受けた場合についてする特定公共事業の認定(特措法三九条一項)は、既に収用法により収用権を賦与されている起業者に対し、更に緊急裁決の申請をしうる(特措法二〇条一項)等の法的地位を与える処分であるから、右特定公共事業認定の取消しを求める法律上の利益を有する者は、同様に、当該収用手続によつて土地等を収用又は使用されるおそれがある者及び関係人(収用法八条三項)に限られるものというべきである。

原告らは行訴法九条の「法律上の利益」とは行訴法が保護に値するとしている利益であつて、実体法的には反射的利益にすぎないとされる事実上の利益でも訴訟により保護されてしかるべき実質的・具体的な利益である場合にはこれを含むとし、騒音等の被害を受ける周辺住民も事業認定ないし特定公共事業認定の取消しを求める法律上の利益があると主張する。しかし、行訴法九条の解釈は先に示したとおりであり、右主張は採用しえない。そして本件各処分の根拠法規である収用法及び特措法には原告らの主張する周辺住民を騒音等の被害を受けない利益を個別的、具体的に保護する趣旨の規定は見当たらず、前記各法律の目的に照らしても、結局原告らの主張する利益は右各法律により保護された利益に当たらないものといわなければならない。また、原告らの主張する環境権なるものはいまだ実体法上の権利と認めることはできない。

従つて原告らの右主張は理由がない。

2(一)  別紙目録(一)(1)記載の甲事件原告らは本件事業認定に係る起業地内の土地又は建物につき、別紙目録(二)(1)記載の乙事件原告らは本件特定公共事業認定に係る起業地内の土地又は建物につき、それぞれ所有権・賃借権等の権利を有しないことは当事者間に争いがないから、右原告らは本件事業認定及び本件特定公共事業認定の取消しを求める原告適格を欠くことは明らかである。

(二)(1)  別紙目録(一)(2)記載の甲事件原告ら及び別紙目録(二)(2)記載の乙事件原告らは、いずれも駒井野団結小屋に使用借権を有していたと主張する。

しかしながら、使用貸借は物の引渡しを要件とする契約であり(民法五九三条)、目的物について貸主から借主に対する独立の占有支配の移転がされることを要するから、単に目的物について立入りを許諾されたにすぎない者は使用借権を取得したといえないことは当然である。

これを本件についてみるに、<証拠>によれば、駒井野団結小屋は、もと富里・八街空港反対運動の際使用した小屋を反対同盟のため移築したものであり、当初は面積約六坪、一部屋のみの小屋で、その後増築されたものの全体で一二坪程度の狭あいな建造物であること、貸主と借主間に作成されたとする確認書(甲第一四〇号証)には、右小屋は原告北原外一五名をはじめとする反対同盟員及びその世帯員並びに反対同盟の支援者に対して「貸渡された」と記載されているものの、右小屋は、反対同盟の集会所等としてその使用のたびに反対同盟員等が右同盟の事務局ないし事務局長北原の承諾を得て使用していたにすぎないこと、右確認書は本件各訴訟提起後の昭和四六年七月一四日付で作成されたものであることが認められ、更に弁論の全趣旨により成立を認めうる甲第一号証によれば、当初亡戸村外十数名の原告らは昭和四四年一〇月一日、千葉県成田市木の根字拓美一六五所在の建物を訴外実川清之との間で使用貸借契約を締結したとして前掲甲第一四〇号証と類似した内容を有する昭和四八年二月一〇日付「無償貸借契約確認証」(甲第一号証)を提出していたが、訴訟被承継原告戸村の本人尋問の結果によれば同人自身は使用貸借契約を締結したとの認識を有していなかつたことが認められ、その後第三〇回口頭弁論期日において前掲甲第一四〇号証が提出されたことが認められる。右認定の事実及び本訴の経過によれば、前掲甲第一四〇号証の記載を直ちに採用することはできず、同号証掲記の原告らは、駒井野団結小屋への立入りを認められることがあつたにすぎず、右小屋の引渡しを受けこれを独立に支配していたものと認めることはできない。従つて、別紙目録(一)(2)記載の甲事件原告ら及び別紙目録(二)(2)記載の乙事件原告らが使用借権を有していたとは認められないものというべきである。

(2)  してみると右原告らもまた本件事業認定及び本件特定公共事業認定の取消しを求める原告適格を欠くものというべきである。

(三)  被告の本案前の申立ての理由三1の事実並びに原告戸村澄江及び同和代は亡戸村から相続により取得した駒井野団結小屋の共有持分権を甲、乙事件補助参加人戸村勝二に対し贈与したことは当事者間に争いがないから、右原告らは本件各処分の取消しを求める法律上の利益を失つたことが明らかである。

(四)  別紙目録(一)記載の原告らを除くその余の甲事件原告らは本件事業認定に係る起業地内の土地又は建物について、別紙目録(二)記載の原告らを除くその余の乙事件原告らは本件特定公共事業認定に係る起業地内の土地又は建物について、それぞれ所有権・賃借権等の権利を有することは当事者間に争いがない。

3以上によれば、別紙目録(一)記載の甲事件原告らの本件事業認定の取消しを求める訴え及び別紙目録(二)記載の乙事件原告らの本件特定公共事業認定の取消しを求める訴えはいずれも原告適格を欠く不適法な訴えとして却下すべきである。

そこで、別紙目録(一)記載の甲事件原告らを除くその余の甲事件原告ら及び別紙目録(二)記載の乙事件原告らを除くその余の乙事件原告ら(以下一〇項までこれらの原告を「原告ら」という。)の請求の当否について検討する。

二1(一) 原告らは、収用法七一条は憲法二九条三項、一四条に違反し、従つて、本件事業認定自体無効であると主張する。

(二) しかしながら、損失補償の額に関する収用法七一条の違憲性が本件事業認定の無効を招来するとは解しえないから原告らの主張は既にこの点において失当であるのみならず、次のとおり収用法七一条は憲法二九条三項、一四条に違反しない。

(三) すなわち収用法七一条は収用土地等に対する補償金の額の基準時を事業認定の告示の時と規定しているが、収用法における損失の補償は憲法二九条三項の趣旨からも、「完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもつて補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要する」(最判昭和四八年一〇月一八日民集二七巻九号一二一〇頁)ものと解すべきところ、収用法四六条の二によれば土地所有者等は事業認定の告示後は権利取得裁決前であつても起業者に対し、補償金の支払いを請求することができ、この場合、起業者は右請求のあつた日から原則として二か月以内にその見積額を支払わなければならず(同法四六条の四)、右見積額が不当に低いときや支払期限を遅滞したときは後に権利取得裁決において不当に低額にすぎた額に応じた額や遅滞した額について高率の加算金が加算されることとされているから(同法九〇条の三)、かくして被収用者は経済的には近傍において被収用地と同等の代替地を取得しうる機会を与えられているのであり、また同法七一条が事業認定時の相当価格に権利取得裁決時までの物価の変動に応ずる修正率を乗ずることとしていることをも考え併せると、右条項が憲法二九条三項又は一四条に違反するものとはいえない。

よつて、請求原因第三の一1の主張は理由がない。

2(一)  次に原告らは仮補償金による裁決を認めた緊急裁決制度は憲法二九条、三一条、三二条に違反し、このような違憲の緊急裁決の前提となる本件特定公共事業認定は無効であると主張する。

(二)  しかしながら、緊急裁決制度に関する特措法二〇条、二一条の違憲性が本件特定公共事業認定の無効を招来するとは解しえないから原告らの主張は既にこの点において失当であるのみならず、次のとおり特措法二〇条、二一条は憲法二九条、三一条、三二条に違反しない。

(三)  憲法二九条三項は「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」としている。しかし、同条は補償の支払時期については何ら規定をしていないのであるから、いわゆる補償前払いの原則が憲法上常に保障されていると解することはできない(最判昭和二四年七月一三日刑集三巻八号一二八六頁)。

そして緊急裁決は、公共の利害に特に重大な関係があり、かつ緊急に施行することを要する事業に必要な土地を取得するため(特措法一条、七条四号)、明渡裁決が遅延することによつて右事業の施行に支障を及ぼすおそれがある場合に特別に認められたものであり(同法二〇条一項)、起業者は権利取得の時期までに概算見積りにより定められた仮補償金(同法二一条一項)を払い渡さなければならず(同法二七条、収用法九五条一項)、収用委員会は緊急裁決の後引き続き審理し遅延なく補償裁決をしなければならないし(特措法三〇条一項)、仮にその補償金額が仮補償金額を上回るときは起業者はその差額に年六分の割合による利息を付して支払わなければならないとされ(同法三三条二項)、更に右最終的な補償義務の履行を確保するため緊急裁決において担保の提供を命ずることができること(同法二六条一項)、また被収用土地上の建物の居住者は仮住居による補償を求めることもできること(同法二三条、二九条)、その他被収用者の保護のため現物給付(同法四六条)、生活再建等のための措置(同法四七条)を求めることができることとされていること等を勘案すると、特措法に基づく緊急裁決の制度が憲法二九条三項に違反するとはいえない。

(四)  次に緊急裁決のうち、仮補償金については損失補償の訴えを提起することができないこととされている(同法四二条三項)。しかし損失補償については緊急裁決の後速やかに補償裁決がされ(同法三〇条一項)、仮補償金との差額が清算されること(同法三三条)となつているのであり、右の補償裁決に対しては当然訴えを提起しうるのであるから、暫定的措置である仮補償金の決定に対して訴えを提起できないとしても、憲法三一条、三二条に違反するとはいえない。

従つて請求原因第三の一2の主張は理由がない。

3(一)  原告らは特措法の定める代行裁決の制度は憲法九二条に違反し、かかる違憲な規定を含む特措法に基づく本件特定公共事業認定は無効であると主張する。

(二)  しかしながら、裁決の代行に関する特措法三八条の二ないし三八条の四の違憲性が本件特定公共事業認定の無効を招来するとは解しえないから原告らの主張は既にこの点において失当であるのみならず、次のとおり特措法の右規定は憲法九二条に違反しない。

(三)  憲法九二条は「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。」としている。

ここに「地方自治の本旨に基いて」とは、その地方の公共事務が何よりもその地方の住民の意思に基づいて行われるべきことを意味すると解されるが、地方の公共事務についての国の関与を全く否定する趣旨でないことは事の性質上明らかである。

ところで特措法三章三節の裁決の代行は、緊急裁決の申立てがあつたのにもかかわらず特措法二〇条四項で定める二か月以内の期間内に収用委員会が裁決をしないときに起業者が異議申立てをした場合に事件が建設大臣に送付されるものであるが(同法三八条の二第一項)、この場合も収用委員会は異議申立てのあつた日から一か月以内に裁決すべき期日を定めて引き続き審理、裁決をすることができるのであり(同条二項)、建設大臣による裁決の代行(同法三八条の三第一項)は極めて例外的に認められているにすぎず、前記のとおり特措法は公共の利害に特に重大な関係があり、緊急に施行することを要する事業に限り特に適用されるものであることを考え併せると、右裁決の代行の制度は、裁決の緊急性の要請から例外を認めたもので、収用委員会の権限を不当に侵害するものではないから憲法九二条に違反するとはいえないものというべきである。

従つて請求原因第三の一3の主張は採用できない。

三ところで新空港は昭和四〇年六月二日施行された公団法二条により「一長期にわたつての航空輸送需要に対応することができるものであること、二将来における主要な国際航空路線の用に供することができるものであること。」の二要件を備える公共用飛行場として東京都の周辺地域で政令で定める位置に定めるものとされ、昭和四一年七月四日本件閣議決定を経て同月五日位置政令により千葉県成田市に設置することとされたこと、昭和四二年一月二三日公団からの申請に基づき運輸大臣は本件工事実施計画を認可したが<証拠>によれば、その後公団の申請に基づき昭和四四年一月二五日運輸大臣は右工事実施計画の一部変更の認可をしていることが認められ(以下これによる変更後のものを「本件工事実施計画」ということがある。)、これによれば敷地面積は一〇六四万九二〇〇平方メートル、滑走路は長さ四〇〇〇メートル(A)、二五〇〇メートル(B)、三二〇〇メートル(C)のもの各一本で幅員はいずれも六〇メートル、工事完成予定期日は滑走路A及びこれに対応する諸施設について昭和四六年三月三一日、右以外の諸施設については同四九年三月三一日とされていたこと、公団からの申請に基づき被告は本件事業(新空港建設事業全体)につき本件事業認定を行い昭和四四年一二月一六日付で告示をしたこと、同じく公団からの申請に基づき被告は本件第一期事業(新空港第一期建設事業すなわち四〇〇〇メートル滑走路及びこれに対応する諸施設の建設事業)につき本件特定公共事業認定を行い昭和四五年一二月一八日付で告示したことは当事者間に争いがない。そこで以下原告らの主張する違法事由を順次検討する。

四収用法二〇条、特措法七条の各一号要件について

1収用法二〇条一号は事業認定の要件として「事業が第三条各号の一に掲げるものに関するものであること。」とし、同法三条一二号は「航空法による飛行場又は航空保安施設で公共の用に供するもの」としている。本件事業は公共用の飛行場である新空港の建設事業であり、公団からの申請に基づき昭和四二年一月二三日運輸大臣が本件工事実施計画を認可(航空法五五条の三第一項)したことは前記のとおり争いがないのであるから、本件事業は収用法三条一二号、二〇条一号に該当するものというべきである。

次に特措法七条一号は特定公共事業認定の要件として「事業が土地収用法第三条各号の一に該当するものに関する事業……のうち、第二条各号の一に該当するものに関するもの……」とし、同法二条三号は「第一種空港」を掲げ、空港整備法二条一項一号は本件空港を第一種空港としている。そして本件第一期事業を包摂する本件事業は本件空港建設事業であり、収用法三条一二号の事業に該当することは先にみたとおりであるから、本件第一期事業は特措法二条三号、七条一号に該当するものというべきである。

2(一)  原告らは本件空港は航空法による飛行場に当たらないとし、その理由として第一に本件空港の設置に当たり公聴会開催の義務等に違反し、航空法所定の手続を踏まなかつた旨主張する。

(二)  新空港については公団法二条により「東京都の周辺の地域で政令で定める位置に設置するものとする。」とされており、本件閣議決定を経て「公団法第二条〔……〕の政令で定める位置は、千葉県成田市とする。」旨の位置政令が制定・公布されたこと、その後昭和四一年七月三〇日公団が成立したこと、本件閣議決定前に公聴会を開催しなかつたことは当事者間に争いがないが、原告らの主張する航空法三九条二項、五五条の二第二項が本件閣議決定をする際に適用され、公聴会の開催が必要的要件となるものと解することはできない。

すなわち、本件閣議決定は、政府の行政指針として新空港の位置を千葉県成田市三里塚町を中心とする地区としたものにすぎず、新空港の設置者が公団であることは公団法一条及び航空法五五条の三の規定により明らかであるから、本件閣議決定ないし位置政令公布の段階において内閣を新空港の設置者とみるべき根拠はない。また、航空法三九条二項は、公団以外の者から飛行場等の設置許可申請がされた際に、運輸大臣に対し公聴会の開催を義務付けたものであるから、政府が新空港の位置について閣議決定ないし政令を公布する際に適用される規定でないことも明らかである。

そして航空法三九条二項が飛行場の設置許可の審査を行うに際して公聴会を開き利害関係人に対し飛行場の設置に関する意見を述べる機会を与えたのは、右設置許可により飛行場敷地及びその周辺の住民に重大な影響を及ぼすことがあるから利害関係人の意見を十分に聴くことが適当であるとの配慮に基づくものであるところ、新空港の設置に当たつては工事実施計画につき運輸大臣の認可を受けるに際し公聴会の開催が要求され(同法五五条の三第二項、三九条二項)、現に本件においても本件工事実施計画の認可に当たり昭和四二年一月一〇日公聴会が開催されたことは当事者間に争いがないのであるから、本件閣議決定前に公聴会の開催を必要とする実質的理由も存しないものというべきである。よつて、原告らの右主張は失当である。

3(一)  次に原告らは、本件工事実施計画の認可は、補償規定を欠缺する違憲の公用収用の効果を惹起せしめるもので憲法二九条三項に違反して無効であり、本件各処分は右瑕疵を承継し、あるいは本件空港が航空法による空港に当たらないこととなるから、違法であると主張する。

(二)  しかしながら、仮に補償規定を欠缺する「公用収用」の効果を生じさせるとしても、本件工事実施計画の認可自体が無効となることはない。のみならず、航空法四九条一項、五〇条一項が憲法二九条に違反するとはいえない。すなわち、まず、「空中利用権」を「公用収用」されたとの原告らの主張は独自の立論であり、採用できないことは明らかである。次に航空法四九条一項は工事実施計画の認可の告示の後は、進入表面等の上に出る高さの建造物等の設置等を禁じているものであるが、同条三項によれば、飛行場の設置者が右告示の際現存している物件を除去すべきことを所有者等に請求するためには通常生ずべき損失を補償しなければならないとされ、同法五〇条一項は進入表面等の投影面と一致する土地で進入表面等からの距離が一〇メートル未満のものについて同法四九条一項の規定による用益の制限により通常生ずべき損失を当該土地の所有者等に対し政令で定めるところにより補償しなければならないとし、同法施行令四条の四、四条の二は右補償は原則として金銭でするものとしている。従つて進入表面等の投影面と一致する土地で進入表面等から一〇メートル以上の距離にある土地の所有者が、新たに進入表面等の上に出る高さの建築物等を設置等することは補償なくして禁じられていることとなるが、この程度の制限は公共の安全の維持のための財産権の内在的制約として当然受忍すべきものと考えることができるからである。

よつて原告らの主張は失当である。

4(一)  原告らは航空法による航空保安施設には、「飛行場保安施設」と「航空路保安施設」の別があり、収用法三条一二号の「航空保安施設」は右「航空路保安施設」を指し、「飛行場保安施設」は同号において飛行場に含まれるものであるところ、本件各申請においては飛行場と飛行場保安施設が一体のものとして起業地に含まれておらず、いわゆる飛行場敷地のみが起業地とされているので本件各申請に係る各事業は、収用法三条一二号の「航空法による飛行場」建設事業に当たらないと主張する。本件各申請において飛行場と航空保安施設が一体のものとして起業地に含まれていなかつたことは当事者間に争いがない。

(二)  しかしながら、収用法三条一二号は「航空法による飛行場又は航空保安施設で公共の用に供するもの」としているので「飛行場」及び「航空保安施設」の概念については専ら航空法により規定されるものであるところ、航空法二条四項は航空保安施設とは「電波、燈光、色彩又は形象により航空機の航行を援助するための施設で、運輸省令で定めるものをいう。」とし、航空法施行規則一条は、航空保安施設として航空保安無線施設、航空灯火、昼間障害標識を挙げているが、航空法、航空法施行規則を通じてみても原告らの主張する「飛行場保安施設」と「航空路保安施設」の区別はなく、かえつて「飛行場」と「航空保安施設」とは設置手続、設置基準、管理基準等について明確に区別してそれぞれ別個の手続規定及び基準に服させており(航空法三九条二項、四〇条、四一条一項、三項、四四条、四五条)、設置についての運輸大臣の許可(同法三八条一項)ないし認可(同法五五条の三第一項)も各別個にされることとなつているのであるから、航空法は右両者を判然区別していることは明らかであり、航空保安施設の一部である原告らのいう「飛行場保安施設」が飛行場に含まれると解することは到底できない。原告ら主張のように飛行場設置許可申請(又は新空港の工事実施計画認可申請書)に設置予定の航空保安施設の概要を記載しなければならないとされ(航空法施行規則七六条一項九号、七六条の二)、あるいは飛行場の種類ごとにその飛行場に設置されるべき飛行場灯火の種類を指定している(同規則一一七条一号、一号の二、二号)からとて右結論が左右されるいわれはなく、原告らの挙げるその余の論拠もその主張を肯認させるに足りない。

従つて収用法三条一二号の「航空法による飛行場」には原告らの主張する「飛行場保安施設」は含まれないものと解すべきである。また特措法は特定公共事業認定の対象となる事業として収用法三条一二号の「航空法による飛行場」に関する事業のうち第一種空港に関する事業を掲げているが(特措法七条一号、二条三号)、第一種空港における飛行場には、同様に原告らの主張する「飛行場保安施設」は含まれないものと解すべきである。

もとより空港としての機能を発揮するためには法定の航空保安施設を設置することが必要不可欠であることはいうまでもないが、右施設用地を起業地に含め、これを一個の事業として申請しなければ事業認定の要件を欠くに至るものではなく、航空保安施設については必要に応じて別個に事業認定を受ければ足りる(収用法三条一二号)ことは明らかである。

そして証人末沢善勝、同城野好樹の各証言によれば、本件各処分に際して被告は公団から航空保安施設の内容及び設置予定地について説明を受け、右予定地については任意買収により取得する旨聞いた上、その取得の可能性があると判断したものであることが認められるので、飛行場のみを対象とする本件各処分が違法とされるいわれはない。

5よつて原告らの主張はいずれも理由がなく、本件各処分は収用法二〇条、特措法七条の各一号の要件を満たしているものというべきである。

五収用法二〇条、特措法七条の各二号要件について

1収用法二〇条、特措法七条の各二号は事業認定及び特定事業認定の要件として「起業者が当該事業を遂行する充分な意思と能力を有する者であること。」としており、右の「能力」とは事業を遂行する法的、経済的、実際的(企業的)能力を指称するものと解される。

ところで本件事業の遂行については公団方式によることが最適であるとの航空審の建議がされ、これを受けて政府が公団法を可決成立させたことは当事者間に争いがなく、同法によれば本件事業の起業者たる公団は新「空港の設置及び管理を効率的に行なうこと等により、航空輸送の円滑化を図り、もつて航空の総合的な発達に資するとともに、わが国の国際的地位の向上に寄与することを目的」として同法に基づいて設立されたものであり(同法一条)、その資本金は全額政府の出資とされる等(同法五条)の措置が講じられており、また本件事業の遂行に必要な財源措置が施され、運輸大臣より本件工事実施計画の認可を受けていることは当事者間に争いがない。そして<証拠>によれば、公団は、年度ごとに事業計画、資金計画等につき運輸大臣の認可を受けており(公団法二六条)、また本件各事業の遂行に必要な組織を有し職員を配置していることが認められ、右認定を覆すに足りる的確な証拠はない。

従つて公団は本件各事業を遂行する充分な意思と法的、経済的、企業的能力を有するものというべきである。

2(一)  原告らは公団は本件事業について最適地、最適規模を決定する権限を有していなかつたから、当初から起業者適格を欠いていたと主張し、公団が成立した昭和四一年七月三〇日以前に本件閣議決定がされ、位置政令が公布・施行されていたことは前記のとおり当事者間に争いがない。

しかしながら、本件空港のような国際空港の位置・規模等を決定することは、国家的大事業として高度に政策的、専門技術的判断を要することがらであるから、これらのすべてを起業者が独自に決定する権限を有しなければならないものではなく、起業者が右の権限を有しないからといつて収用法二〇条二号の要件を欠くものとはいえない。

よって原告らの右主張は失当である。

(二)  原告らは公団は一個の有機的システムである空港の本質を理解する能力を欠き、交通連絡手段、空域、燃料供給等の重要問題につき杜撰な対応しかなしえず、そもそも交通連絡手段、空域、燃料供給の確保及び騒音対策について主位的かつ責任をもつて実現しうる権能がなく、本件空港を「新東京国際空港」たらしめる能力を欠如している旨主張する。

しかしながら、公団が本件各事業を遂行する充分な意思と能力を有することは先にみたとおりであり、右交通連絡手段の確保等問題のすべてについて起業者が独自の判断と責任で処理する権能を有しなければ収用法二〇条二号及び特措法七条二号にいう意思と能力を欠くに至るものではなく、原告ら主張の交通連絡手段、空域等の問題は収用法二〇条三号及び特措法七条三号の要件の問題として関連を有するにすぎないと解すべきである。のみならず、<証拠>によれば、交通連絡手段については首都高速道路公団、日本道路公団、日本国有鉄道、日本鉄道建設公団、株式会社京成電鉄等これを遂行する権能をもつ別の事業主体が存在し、これら関連事業の連絡調整を経た関連事業表があり、また関係各省間の連絡会議があつたことが認められ、現に京成電鉄は成田空港駅まで開通し、首都高速六、七号線、東関東自動車道及び湾岸道路の一部が開通しており、運輸省の所管である空域設定もされ、本件第一期事業に係る分については新空港として開通し運営されていることは当事者間に争いがないところである。

また燃料供給についても、結局昭和五三年五月二〇日の開港時にはいわゆる暫定輸送により供給をなしえていたことは当事者間に争いがなく、現在では当初の計画にあつた本格的パイプラインによる輸送が開始されていることは原告らの自認するところであるから、この点について公団が起業者適格を欠くとすることはできない。

更に騒音対策については、前掲乙第一号証によれば昭和四一年七月四日に特に「新東京国際空港の位置決定に伴う地元対策について」と題する閣議決定をし、その中で一定ホン以上の騒音については格別の配慮を行う等第五節被告の主張第一の二1(二)(1)アないしオのとおりの内容の騒音対策が決定されたことが認められ、また昭和四二年八月一日騒音等防止法が制定され、本件空港もその規制の対象とされた(同法二条)ので運輸大臣は航空機騒音の防止ないし軽減のため航行方法の指定をすることができる等とされた(同法三条)ものであるが、更に同法により公団は本件空港の設置者として騒音防止のための各種の助成措置、土地の買入れ、農耕阻害補償等各種の対策を実施する権限が与えられており(同法五条、六条、八条の二、九条、九条の二、一〇条)、<証拠>によれば公団の施した遮音工事は平均三二ホンに及ぶ遮音効果を有していることが認められる。よつてこの点においても公団が起業者適格を欠くとすることはできない。

3以上のとおり二号要件に関する原告らの主張はすべて失当であり起業者たる公団は本件各事業を遂行する充分な意思と能力を有していたものというべく、本件各申請は収用法二〇条、特措法七条の各二号要件を具備していたものというべきである。

六収用法二〇条、特措法七条の各三号要件について

1(一)  収用法二〇条三号は「事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであること。」を事業認定の要件として掲げているが、「公共の利益の増進と私有財産との調整を図り、もつて国土の適正且つ合理的な利用に寄与する」(同法一条)という同法の目的に照らすと、右要件はその土地がその事業の用に供されることによつて得られる公共の利益と、その土地がその事業の用に供されることによつて失われる公共的又は私的利益とを比較衡量し、前者が後者に優越すると認められる場合に存在するものと解すべきである。そして、被告のこの要件の存否についての判断は、具体的には事業認定に係る事業計画の内容、事業計画の達成によつてもたらされるべき公共の利益、右事業計画において収用の対象とされている土地の状況等諸要素の比較衡量に基づく総合判断として行われるべきものである(東京高判昭和四八年七月一三日行裁集二四巻六・七号五三三頁)。特措法七条三号も収用法二〇条三号と全く同一の文言であり、特措法が収用法の特別法であること(特措法一条)に鑑みると同様に解釈すべきである。

(二)  原告らは右各号は、適正かつ合理的な事業計画に基づいて最も適当な土地が収用されるべきことを要件とするから、最適地が他に存するときは右各号に違反すると主張する。

しかしながら、収用法二〇条三号は事業計画が特定の土地を対象とし「当該」土地の適正かつ合理的な利用に寄与することを要求しているものと解されるから、特定の土地を利用しようとする当該事業計画のみが審査の対象とされていると解すべきである。収用法はもとより同法施行規則等にも事業認定の申請に当たり起業者に対して他の適地の有無に関して資料の提出を義務付ける規定はなく、またある事業の適地として複数の適地が存在しうる場合に、事業認定庁が独自の案に基づきすべての適地と申請に係る起業地との優劣関係を判定することまで要求されているとは解しえないから、原告らの主張する最適地原則なるものは、収用法二〇条三号、特措法七条三号の要件ではないと考えるべきである。

(三) もつとも、事業認定の審査に当たり、事業認定申請書等から代替案のあることが判明しており、かつ、これが申請に係る事業計画案よりも明らかに合理的かつ適正であるような場合には、「国土の適正かつ合理的な利用に寄与することを目的とする」(収用法一条)同法の趣旨から、申請に係る事業計画案自体不適正もしくは不合理であるとして同法二〇条三号及び特措法七条三号の要件を欠き、あるいは右代替案に係るより適当な起業地に関する権利が容易に取得しうるような場合には収用法二〇条四号、特措法七条四号の要件を欠くと解する余地がないではない。<証拠>により認められる行政実務の指針である昭和二六年一二月一五日建設管発第一二二〇号建設省管理局長通牒がその一(ハ)において「同条第三号の要件の審査に当つては、例えば他により適当な地点がありや否や、当該特定の土地等が必要なりや否やを具体的に事案に即し、判定すること。」としていることは右の解釈を前提としているものと解せられる。

しかしながら、仮に右のように解するとしても、起業者は事業認定の申請に当たり、代替地の有無につき資料提出の義務が法定されていないこと等(二)で掲げた理由から、ここで比較衡量されるべき代替案は、事業認定庁が審査する過程で関係資料等から当然考慮することが可能なものに限定されるべきである。また一般に事業計画が「土地の適正且つ合理的な利用に寄与するもの」か否かの事業認定庁の判断には性質上裁量判断の余地が認められ(前掲東京高判参照)、特に右のような当該事業計画案と代替案との優劣の審査に当たつては、種々の公益ないし利益の利益衡量を要し、性質上必然的に政策的又は専門技術的な判断を伴うものであるから、より広い裁量の余地があるものというべく、代替案の方が事業計画案よりも著しく優れていて、事業認定庁の判断が社会通念上著しく不相当であると認められる場合にのみ裁量の逸脱又は濫用があり違法とされるものというべきである。

2(一)  そこで以下本件各事業計画に至つた経緯、その内容、本件各事業計画が本件の各起業地の適正かつ合理的な利用に寄与するものであるか、すなわち、本件の各起業地において本件各事業が実現されるべきものであるか、そしてこれにより実現されるべき公益が従前本件各起業地で実現されていた公益及び私益に優越するものであるか、ついで本件各処分時に被告が知りもしくは容易に知りえた代替案で本件の各事業計画案よりも著しく優れ被告の判断を違法ならしめるものが存在していたか否かにつき順次判断する。

(二)  まず、本件空港の位置が決定されるに至る経緯につき判断するに、<証拠>によれば次の事実が認められ、これを覆すに足る的確な証拠はない。

昭和三〇年代後半において我が国の航空輸送需要は国際線、国内線ともに激増し、国民経済の発展に伴い右需要は伸び続け、近い将来には羽田空港の処理能力の限界を超えるものと予想され、また当時欧米で開発中であつたコンコード等の超音速機(SST)、超大型機等が主要国際路線に就航することが予想され、(現に日航は昭和三九、四〇年に欧米にSSTの仮発注をしている。)、これら新機種は離(着)陸のため従前の機種よりも長い滑走路を必要とすることから最長でも昭和三九年四月に新設(予定)の三一五〇メートルのC滑走路しか有していなかつた羽田空港では、質的にも対応しきれないことが予想され、更にアメリカ、フランス、イギリス、カナダ等主要諸外国においてはその首都において新機種に対応しうる第二、第三の空港の建設又は計画が進められていた。

そこで右の事態に対処するため、東京周辺にこれら質的・量的な要請を満たしうる新たな国際空港を建設することの必要性が運輸省航空局を始めとする政府、航空関係者の間で認識され、政府は昭和三七年度予算から新空港調査費を計上して(この点は当事者間に争いがない。)空港適地の調査、検討を開始した。運輸省航空局においては日航等の協力を得て調査をし、羽田空港拡張、霞ケ浦周辺、浦安沖、富里村付近を始め種々の箇所につき管制上、土木技術上その他の検討を加えた。そして運輸大臣は昭和三八年八月、右検討の結果有力とされた霞ケ浦付近、浦安沖、富里村付近の三案を中心に航空審に対し「新東京国際空港の候補地及びその規模」について諮問したところ、同審議会は、航空管制についての専門家等の意見を徴するなど右三候補地につき航空管制、気象条件、地形地質等建設工事上の問題、都心との交通連絡手段、航空機騒音等の立地条件を慎重に比較検討し、空港の規模につき需要予測、滑走路の長さ、数及び配置、諸施設の規模及び配置等について検討を行つた上、同年一二月一一日、候補地としては千葉県富里村付近が最も適当であり、防衛庁との調整が可能であれば霞ケ浦周辺も適当であるが、浦安沖は主として航空管制上の見地から適当ではない、規模としては四〇〇〇メートル程度の主滑走路二本、副滑走路二本、横風用滑走路一本が必要であり、面積は二三〇〇ヘクタール(七〇〇万坪)を必要とするとの本件答申をした(運輸大臣が航空審に対し諮問をし、航空審が本件答申をしたことは当事者間に争いがない。)。

ところで新空港の候補地については政府部内でも意見が分かれ、容易に意見の一致は見られなかつた。そこで、本件答申の後も、政府部内及び地元関係者の間で異論があり、富里村付近に直ちに決定することができず、政府部内で更に検討を行うこととし、関係閣僚懇談会を設置し、昭和四〇年三月二九日の同懇談会において(同日懇談会が開催されたことは当事者間に争いがない。)今後の検討方針として、①候補地は富里のほか埋立地の検討も必要である、②東京湾、霞ケ浦等についても関係事務次官会議において検討の上早急に調査を実施する、③米軍に提供中の飛行場の利用等につき、外交ルートを通じ早急に打診するとの三点が決定された。

これに基づき昭和四〇年四月一日関係事務次官会議(同日関係事務次官会議が開催されたことは当事者間に争いがない。)において空域、渉外、土木技術の三小委員会が設置され、関係各省の専門職員が委員となりそれぞれ調査、検討を行つた結果、東京湾埋立てについては管制上の制約から羽田空港の能力を減ずる、工事施行及び維持補修等土木技術上の難点がある、船舶航行に非常な支障を生ずる等の難点があると判断され、また外交ルートを通じて打診した結果、東京西部の米軍飛行場については現時点における日本側返還は不可能であるとの回答があり、霞ケ浦についても利水・治水対策、工程・工事費、百里空域との関係での航空管制上等の難点があり候補地として適当でないとされた。なお運輸省航空局では右案の外一般に候補地が提唱されると直ちにその候補地につき調査、検討する等し、合計二〇以上の候補地につき検討したが、必要な空域を確保できる等航空管制、地形・地質、気象、土木技術・交通連絡手段、騒音対策等の観点からやはり富里村付近が最適地であると判断された。

そこで昭和四〇年一一月一八日関係閣僚協議会において新空港の位置を富里に内定し、次いで同四一年三月四日臨時新東京国際空港閣僚協議会を設置する旨閣議決定をした(これらの事実は当事者間に争いがない。)。ところが右富里案については地元の反対が強く友納知事も地元と協議することなく内定したとして強く反発し、昭和四〇年一二月一三日には運輸省に対しいわゆる住民対策の四原則なるものを申し入れ、翌四一年二月二八日にはついに地元住民に対して説得の態度をとらず静観注視するとの所信を表明するに至つた(富里案について地元の反対が強く、友納知事が静観する態度を採つたことは当事者間に争いがない。)。そこで政府としても富里案に決定することができず、運輸省内部で更に検討し、若狭得治運輸省事務次官らと友納知事との間で協議・検討をした結果、富里はもともと平坦な北総台地の中で広大な土地を確保しうるとの観点から選ばれていたものであるところ、富里の北方約一〇キロメートルに位置する成田市三里塚付近は、同じ北総台地にあり、航空管制、地形・地質、気象等の諸条件において富里との間に大差はなく、また交通連絡手段の面でも新空港の目安とされた一時間以内と予測され、国際空港の立地条件としてほぼ同じであること並びに国有地である広大な下総御料牧場及び県有地を最大限に利用し、かつ、敷地面積を約二分の一にすることにより約一五〇〇戸の立退きを要した富里に比べ民有地の買収を極力少なくすることができることが判明した。同年六月二二日佐藤首相は右三里塚案につき友納知事に対し協力を求め、同知事はこれを了承した(同年六月二二日佐藤首相が友納知事と会談し協力を求めたことは当事者間に争いがない。)。そして同年七月四日閣僚協議会において新空港の位置を成田市三里塚町を中心とする地区とすることが了承され、同日本件閣議決定を経て、翌五日位置政令が制定・公布された(これらの事実は当事者間に争いがない。)。

(三)  次に本件空港の規模等につき判断するに、<証拠>によれば次の事実が認められ、これを覆すに足る証拠はない。

(1) 新空港の空港計画の基礎とされた諸需要予測の内容は別表一「需要総括表」のとおりであり、本件空港計画の第一期工事計画は昭和五一年度の本件空港計画全体は昭和六一年度の、各東京地区国際線の乗降旅客数、貨物取扱量、発着回数の予測に基づいて立てられた。

(2) 右基礎需要予測によれば昭和六一年度の東京地区国際線の発着回数は一八万一〇〇〇回と見込まれたが、一本の滑走路で処理しうる航空機の離着陸回数は年間約一三万回であるため、滑走路の数として同時使用可能な主滑走路二本、横風用滑走路一本とし、年間約二六万回と算定し、右昭和六一年度の予測需要量に比し十分余裕をもつように設計された。

また新空港で使用が予定されていたDC―八、B―七四七等の夏期高温時・最大離陸重量における離陸必要滑走路長は三二九〇メートルないし三八一〇メートルであつたので、四〇〇〇メートル滑走路を建設する必要があり、これは昭和四六年三月三一日完成予定の第一期工事計画において建設する必要があるとされた。他の一本の主滑走路は二五〇〇メートルとされ、横風用滑走路はICAOの施設基準等も考慮して主滑走路長の八〇%の三二〇〇メートルとされた(予定された滑走路の本数、長さについては当事者間に争いがない。)。

(3) 着陸帯、誘導路、エプロンその他の必要施設については前記の昭和六一年度の需要予測に耐えられるよう計画され、その敷地総面積は一〇六四万九二〇〇平方メートルとなり、四〇〇〇メートル滑走路とこれに対応する諸施設を建設する第一期工事計画の総面積は五五〇万四一〇〇平方メートルとされた(右の面積についてはいずれも当事者間に争いがない。)。

(4) 空港が実際にその機能を果たすために必要な給油施設については、航空燃料の年間供給量は別表一のとおり昭和五一年度二〇〇万キロリットル、昭和六一年度五五〇万キロリットルと予測されたので、この輸送及び給油方法として千葉港頭に油送船で運ばれてきた燃料をパイプラインで新空港まで送油し、ここからハイドラント給油方式により航空機に給油するシステムが採用され、そのため千葉港に千葉港頭給油施設、新空港に空港側給油施設、その間にパイプライン施設を設置することが計画され、この約四二キロメートルに及ぶパイプラインは、右最終需要量に対応できる一時間当たり五〇〇キロリットルの送油能力を持つ一四インチ圧力配管用炭素鋼鋼管二本を地下埋設によつて敷設するよう計画された(これらの事実は当事者間に争いがない。)。

(5) 都心との交通連絡手段については道路利用と鉄道利用の二通りの方法が予定され、道路利用の方法は首都高速六号線→同七号線→京葉道路→東関東自動車道→新東京国際空港線を経由するルートで道路距離約六六キロメートルで(以上の事実は当事者間に争いがない。)所要時間は約六〇分と予測された。

そして右道路のうち本件事業認定時に供用されていたのは京葉道路(拡幅工事中であつた。)だけであつたが、その余の道路についても新空港供用開始時までに供用される予定で着工されていた。

また将来の交通量の増加に対しては東京湾の埋立て計画に伴う東京湾岸道路を経由し、首都高速九号線により都心と結ぶルートが建設省により昭和三七年度から調査、計画されていた(右計画のあつたことは当事者間に争いがない。)。

次に鉄道利用については、京成電鉄が京成成田駅から新空港までの約七キロメートルの区間について運輸大臣に路線免許の申請をしており、これが完成により上野又は銀座から同空港まで約一時間で連絡可能と予測されており、右区間については本件特定公共事業認定前の昭和四五年一一月二〇日に着工された。また本件事業認定当時いわゆる成田新幹線の建設が検討されており、在来線では、総武線の千葉駅までの複々線化、成田線の複線化が計画されていた(京成電鉄が新空港まで延伸する計画であつたこと、成田新幹線が検討されていたことは当事者間に争いがない。)。

(6) 本件空港の位置の決定については、家屋の密集地帯を避けて人口密度が低く、土地利用状況も農地、山林等の比較的開発が進んでいない地域を選び、また騒音防止の観点から近隣の最大の市街地である成田市中心部が航空機の飛行経路から外れるとともに、周辺において最も人家が集中している三里塚交差点から滑走路の中心線が約一キロメートルに離れるようにした。

(7) 本件各事業計画においては下総御料牧場を始め国公有地約三九五ヘクタールを有効に利用して各起業地に取り込み、民有地の買収及び家屋の移転を極力少なくされた。

3(一)  事業計画が当該土地の利用上適正かつ合理的といえるか否かは前記のとおり当該土地が当該事業の用に供されることにより得られる公共の利益とこれにより失われる公共的又は私的利益とを比較衡量して判断すべきものであるが、その前提として当該土地を当該事業の用に供することが適していなければならないことはいうまでもない。仮に当該土地で当該事業を行うことが著しく不合理であるような場合には収用法二〇条三号及び特措法七条三号の要件を欠くこととなると考えられる。

そこで本件各起業地が空港用地として適地といえるか否かにつき以下検討することとする。

(二)(1)  まず空港の用地選定に当たり空域の確保が技術的な立地条件として最も重要であることは当事者間に争いがない。

(2)  ところで新空港の候補地の選定に当たつて航空審、運輸省航空局等では常に管制専門家の意見を徴し、富里についで三里塚地区を空港最適地と決定するに当たつてもこれらの者の意見により必要な空域が確保されることを確認しており、航空管制上問題がないと判定されたことは先に認定したとおりである。そして、<証拠>によれば現在本件空港、羽田空港及び百里飛行場にはそれぞれ必要な空域が確保されていることが認められ、右各飛行場がそれぞれ供用され航空管制上特段の支障がないことは公知の事実である。

(3)  原告らは空域の関係で本件空港の設置により羽田空港の能力を減少させることになると主張する。本件空港の設置により従前の関東上空の空域(百里空域、羽田空域、横田空域、東管空域に細分化されている。)に新たに成田空域を設けることになること、羽田空域はほぼ三分の一の空域を成田空域に取り込まれることは当事者間に争いがないが、羽田空港の外に本件空港が開港されることにより全体としてみれば処理能力の向上がはかられるのであり、現に両空港において国内線、国際線の需要を満たし特段の支障を生じていないことは公知の事実であるから、原告らの右主張は採用することができない。

(4)  また原告らは本件空港に離着陸する航空機と自衛隊百里飛行場から緊急発進するジェット機との接触等が高度に予測されると主張し、成立に争いがない甲第二〇一号証のうちの白石裕作成部分にはこれに副う記載がある。

しかしながら、前認定のとおり本件各処分当時本件空港及び百里飛行場にそれぞれ必要な空域が確保され、航空管制上問題がないと判定されていたこと、本件空港及び百里飛行場が現に航空管制上特段の支障なく供用されている事実に照らすと、本件空港が空域上の条件を満たしていないとはいえない。

(5)  以上によれば、本件空港が空域上空港適地であるとする被告の判断が誤りであるとは認められない。

(三)  次に交通連絡手段については本件起業地と都心との距離が道路距離で約六六キロメートルであることは当事者間に争いがなく、<証拠>により認められる諸外国の主要国際空港と各都心との距離に比べると相当遠距離にあることは否めない。

しかしながら、本件各事業計画において道路及び鉄道のいずれによる都心と約一時間で連絡しうると予測されていたことは前記認定のとおりであり、右の所要時間は約六六キロメートルという距離からすると不合理な予測とはいえないし、東京周辺において広大な空港用地を確保することが極めて困難な事情にあることを考えると、右の程度の所要時間で本件起業地と都心とが連絡しうるならば、交通連絡手段の点でも問題はないものというべきである。そして、現に、首都高速六、七号線(<証拠>によれば昭和四六年三月二一日開通したことが認められる。)、東関東自動車道、湾岸道路のうち江東区新木場・浦安間(<証拠>によれば昭和五三年一月二〇日開通したことが認められる。)がそれぞれ完成していることは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、右道路等を利用することにより事故等不測の事態がない限り、最も混雑する時間帯で空港方向で約六五分、都心方向で約八〇分で連絡されており、また京成線スカイライナーにより新東京国際空港駅と都心とは約六〇分で連絡されていることが認められる。右の事実によれば、被告の予測に誤りはなく、交通連絡手段の点でも本件起業地が適地であるとする被告の判断に誤りがあつたとはいえない。

(四)  次に気象条件について検討する。<証拠>によれば、空港用地の選定に際して問題となる気象条件の主なものは風向及び風速の分布、霧、スモッグ等の発生度であるが、千葉県布佐、佐原、茨城県牛堀の観測資料により三里塚地区に関する風向及び風速の分布について調査したところ、航空機の横風に対する許容限度を一三ノット(毎秒6.7メートル)とした場合、一方向の滑走路で年間を通じて九四ないし九七%、二方向の滑走路で九八ないし九九%の利用度が確保されること、更に現在の大型ジェット機は横風に対する許容限度が二三ないし二八ノットに達することから滑走路の利用度の検討に際して横風許容限度を二〇ノットにすれば一方向の滑走路でも九九%程度の利用度を示すことがそれぞれ明らかになつたこと、スモッグについては東京湾の工業地帯から距離的に遠く離れているのでその懸念はないこと、霧に関しては東京、布佐、佐倉、三里塚における昭和二九ないし三八年の統計からみても特に問題のないこと、その他降水量、雨日数、雪日数等についても三里塚地区は特に問題のないことが判明したことが認められる。

もつとも<証拠>によれば三里塚の霧日数は例えば木更津が零日であるのに対し一二日であることが認められるが、右の事実をもつてしてはいまだ成田地区が気象条件の点から空港適地でないとはいえない。また原告らは本件空港周辺は関東ローム層の微粉末が赤い風となりジェット・エンジンに悪影響を与えると主張するが、これに副う成立に争いのない甲第三八号証の記載は直ちに採用できず、他に右「赤い風」が、本件各起業地に空港適地として致命的な影響を与えることを認めるに足りる証拠はないし、原本の存在及び成立に争いのない甲第二〇六号証の記載も前記判断を覆すに足りず、他に右結論を左右するに足る的確な証拠はない。

(五)  更に地形・地質上の条件について検討する。<証拠>によれば、一般に関東平野においては地層生成が新しく地質も軟らかな沖積層よりも、洪積層台地の方が強固な地盤であるとされており、三里塚の存する北総台地は成田層群と呼ばれる海成の洪積層の上に薄く関東ロームをかぶつた台地であり、その地形発達史並びに成田層の構成及び性質から、新空港の設置には支障がなく、地形図からも平坦性及び広さの点で適切で建設工事も容易であると判断されたことが認められ、右判断を特に覆すべき事実は何ら見当らない。

(六)  原告らは新空港は国際空港であるからその運行時間は二四時間でなければならずこれを確保できない本件起業地は新空港の適地とはいえないと主張する。

新空港は、「将来における主要な国際航空路線の用に供することができるものであること。」(公団法二条二号)を要件とするものであり、国際空港である以上二四時間の運行時間を確保することが望ましいことは証人手塚の証言等からしても明らかであるが、一方、本件空港において現在午後一一時から午前六時までの航空機の離発着が禁止されていることは当事者間に争いがない。

しかしながら<証拠>によれば国際空港であるからとて必ずしも二四時間運行可能でなければならないものではなく、現に夜間の運行を禁止している空港も存在していることが認められる(羽田空港及び大阪国際空港が夜間のジェット機の離発着を禁止していることは当事者間に争いがない。)のであるから、運行時間を二四時間確保すべきことが必須の要件とまで解することはできず、これもまた畢竟三号要件を総合的に判断する場合考慮されるべき一要素にすぎないものというべきである。

(七) 以上によれば本件起業地を新空港用地の適地であるとした被告の判断に誤りがあるとはいえない。

4本件事業は、増大する航空需要に質的・量的に対応し主要な国際航空路線の用に供するため新東京国際空港を建設するものであつて、本件第一期事業はそのうち四〇〇〇メートル滑走路及びこれに対応する諸施設を建設するものであるから、その公益性は明らかというべきである(ただし、その具体的検討は、原告らの主張に応じて第七項で行う。)。そこで<証拠>によれば本件空港の総敷地面積約一〇六五ヘクタールのうち下総御料牧場等の国公有地が三九五ヘクタール、約三七%を占め、民有地は約六七〇ヘクタールであり、民有地の内訳は田約四七ヘクタール、畑約四〇二ヘクタール、山林約一一一ヘクタール、原野約三二ヘクタールで宅地は約三〇ヘクタールにすぎず、その他が四八ヘクタールであることが認められ、また本件起業地を含む北総台地が農業地帯であり、米、麦、西瓜、メロン等の蔬菜類を産出し、東京市場を中心に各地に出荷されていること、北総台地が農業適地であり出荷組合が組織されていることは当事者間に争いがない。

(二) ところで、右のように本件起業地は農業適地であつたから、これが本件各事業に供されることにより本件起業地を農業経営の基盤にしている農家の生活が失われることとなるが、右の点を考察するに当たつては、右利益の損失を補填する地元住民対策を考慮に入れる必要がある。

<証拠>によれば、政府は本件閣議決定に際し特に千葉県当局の要請に副つて地元対策閣議決定をし、営農希望の農民には国は県と協力して移転先等につき申出者の希望を尊重して代替地を用意し、営農が円滑に行えるよう資金及び技術等の援助をする、離職者の職業あつせんについては住民の希望を徴して国が責任をもつて空港の事業、関連事業等に就業させ、特に空港における構内営業は地元民に優先的に開放する等の地元住民対策を決定し、本件事業認定前の昭和四四年六月には公団が取得した代替地の面積は約五〇〇ヘクタールに及び、このうち造成を必要とする約二五六ヘクタールについては開懇開畑整地工事を行い必要な地区に畑地灌漑工事を実施したこと、代替地の配分については成田市内及び空港近隣の代替地についてはこれを希望する者が多かつたため当初の原則として面積を一対一とする予定は完遂されなかったものの、空港用地の提供面積に応じて二町以上の者は七反五畝等被告主張のとおり配分し、その他の地区を希望する農業専業希望者に対してはおおむね従来の経営規模に見合う面積を限度として配分することとし、前同月現在までに約三一〇ヘクタールを配分したこと、また公団は右閣議決定に副い新空港関連事業への就職のあつせん、空港構内営業等の経営指導を行い昭和四三年二月一日には住民対策の一環として生活設計相談所を開設し、また同四三年一一月一日には千葉県立芝山職業訓練所が設置されたことが認められ、これに反する証拠はない。

(三)(1) 次に本件起業地を事業の用に供することにより失われる利益として地元民に対する騒音による被害が考えられるから、被害の程度の予測、防止対策を検討する必要がある。空港特にジェット機の離発着する空港においては騒音の生ずることは不可避的であるから、騒音公害ないしは一定限度以上の騒音公害の発生の可能性が直ちに土地の不適正かつ不合理な利用を意味するものではなく、三号要件を考察する場合の消極的要素の一つとして、実現されるべき公益との関係で利益衡量されるにすぎないものと解すべきである。そしてその際には本件各処分当時右要素をいかに勘案しこれに対しどのような対策が予定されていたかも斟酌されることとなるので以下この点につき検討する。

<証拠>によれば、政府は本件空港が内陸空港であり騒音対策が不可欠であると考え、地元対策閣議決定において当時国が実施していた騒音対策の基準等を勘案して一定ホソ以上のものについて格別の配慮を行う、地元関係者を含めた騒音対策委員会を設置する、騒音対策区域内の住家及び店舗で移転を希望する者については、実情に応じ、移転先のあつせん、移転料の支払等について国が所要の措置を講ずる、学校、病院については国費をもつて措置する、騒音対策区域内の農耕地については、必要なものにつき畑地灌漑施設を建設し、農業収入の増大を図るという騒音対策を決定したこと、ついで昭和四三年一〇月一一日開催の臨時新東京国際空港関係閣僚協議会で騒音防止法の指定区域外の土地であつても騒音区域(滑走路末端から二キロメートル、滑走路中心線から西側に各六〇〇メートルの地域)内の土地については、買取り希望のある者から空港敷地と同一価格で買収を行うことを決定したことが認められ、これに反する証拠はない。また昭和四二年八月には騒音防止法が制定され、新空港は同法の規制対象となる「特定飛行場」に指定されたので(二条)、国、運輸大臣、公団等は同空港につき航行方法の指定(三条)、学校・病院等の騒音防止工事の助成等々の騒音防止対策を講ずることができるようになつた。そして<証拠>によれば、昭和四六年一月八日運輸大臣は千葉県知事の要望に対し被告主張第一の二6(三)のように回答し、本件空港につき騒音軽減運行方式、時間規制等の運行方式を採用することを明らかにしたことが認められ、これに反する証拠はない。

してみると本件各処分当時本件空港にはその時点での一般水準以上の防音対策が講じられていたものということができる。

また成田市三里塚という範囲内ではあるものの、空港の位置、滑走路の配置等につきなるべく騒音被害の少ないように配慮がされたことは先に認定したとおりである。

(2) もつとも、本件告示による航空機騒音に係る環境基準としてⅠの地域(専ら住居の用に供される地域)でWECPNL七〇以下、Ⅱの地域(Ⅰ以外の地域であつて通常の生活を保全する必要がある地域)で同七五以下とされ、本件空港については昭和五八年一二月二七日までに右基準を達成すべきこととされていることは当事者間に争いがないところ、<証拠>によれば、昭和五三年六月一〇日から一六日までの間千葉県環境部の職員が測定したところによると、四〇〇〇メートル滑走路の延長線に沿つた四五の測定地点のうち空港を中心として約二キロメートルから四キロメートルの幅で利根川から九十九里海岸までの広い地域に及ぶ二二の地点でWECPNL七〇を超え、七一ないし七五が一二地点、七六ないし八〇が四地点、八一以上が六地点、成田市野毛平の一地点では九五であつたことが認められ、その他<証拠>によつても騒音被害の生じていることが認められる。

しかしながら、本件告示は本件各処分後である昭和四八年一二月二七日に定められたものであり、右告示第2の3によれば「航空機騒音の防止のため施策を総合的に講じても、Ⅰの達成期間で環境基準を達成することが困難と考えられる地域においては、当該地域に引き続き居住を希望する者に対し家屋の防音工事等を行うことにより環境基準が達成された場合と同等の屋内環境が保持されるようにするとともに、極力環境基準の速やかな達成を期するものとする。」としているところであつて、仮に昭和五八年一二月二七日までに環境基準を達しえないとしても直ちに本件各処分自体の効力が左右されるものではない。

(四)  以上(二)、(三)で認定した本件起業地を本件各事業に供することにより失われる利益と(一)の本件各事業で実現されるべき公共の利益とを対比するときは、後者が前者に優越すると判断した被告の判断に誤りがあつたとはいえない。

5原告らは新空港の適地としては羽田空港の拡張又は沖合移転ないし東京湾中北部海域が成田市三里塚よりも優れていたと主張する。

(1)  まず本件各処分時までに提示された羽田拡張案又は沖合移転案ないし東京湾内空港案を具体的にみると、昭和四五年一〇月二日航空政策研究会の提案にかかる羽田空港拡張案は年間処理能力を四四万回としたこと(請求原因第三の六3(二)(2))は当事者間に争いがないが、<証拠>によれば航空政策研究会はその後年間四四万回は不可能で、市街地の上空の飛行を避けなければならないという立地条件等からみて年間二四、五万回程度が限度であると見込まれると見解を訂正していることが認められる。とすると原告らの主張(請求原因第三の六3(二)(2))によつても本件各処分時までに発表された案によつては羽田空港はこれを拡張してもその離発着能力は最大でも二四、五万回になるにすぎず、これでは前記の需要予測(これの検証は次項で行う。)に照らし公団法二条により要求される要件は到底満たしえないものといわなければならない。

原告らは本件空港開港後一年間の国際線発着回数と羽田空港の定期航空便の最大離発着回数実績(昭和四六年)とを加えても拡張した羽田空港の処理能力の範囲内であると主張するが、今後予想される航空需要の増大、またそもそも羽田空港においては昭和四六年当時は離発着の便数制限をしていたこと(この事実は当事者間に争いがない。)に照らすと右事実は直ちに新空港建設の必要性を否定することにはならない。

(2)  <証拠>によれば昭和三九年産業計画会議は新空港の最適地としてむしろ東京湾内中北部海域を主張したことが認められる。しかしながら、同号証によれば、右提案は、羽田空港の廃港を前提としていることが認められるところ、年間一七万五〇〇〇回の離発着能力をもち都心と極めて近い場所に位置する羽田空港を廃止することが得策といえないことは後記認定のとおりであるから、この案が本件事業計画案よりも著しく優つているといえないことは明らかである。

(3)  また証人楢林の証言によれば、同人は運輸省航空局在勤中羽田と木更津を結ぶ線の北側の東京湾中央部に設置すべき旨を主張したことが認められる。しかし、右証言によれば右案は容れられず従つて被告がこれを知りうべきところではなかつたものであるが、この点は措いても、右証言によれば右提案は建設技術上の問題、船舶の航路、港湾計画等の問題につき十分検討したものではないことが窺えるし、また右証人自身現在の羽田空港の滑走路の方向は不適切であるとしてこれを変更することを前提として証言していることが認められるので、右証言から同証人の提案が本件各事業計画案より著しく優るものと認めることはできない。

(二)(1) 次に<証拠>によれば次の事実が認められこれを覆すに足りる的確な証拠はない。

運輸省航空局は、次の理由により羽田空港拡張案、東京湾中北部案を採用しなかつたものであり、被告も本件事業認定に当たり提出された資料や公団、運輸省の説明等により右の案を採用しないことを合理的と判断したものであつた。すなわち、羽田空港拡張案については、①羽田空港の拡張は羽田沖合に平行滑走路を増設することとなるが、これにより東京湾における船舶の出入航路は広範囲にわたり新空港の進入表面等による制限を受けることとなつて航路の移転が必要となり、また東京湾の既存港湾施設を大幅に移転する必要が生じ、当時既に実施中の東京港港湾計画が根本的に改訂を迫られることとなる、②埋立予想海域の水深は深い所で二〇メートル以上、平均一二メートル程度であつて埋立に要する土砂は五億立方メートル(ただし本件空港の二倍規模の富里案の場合)にも上り、土砂の採取地に問題があり、また造成経費も巨額に上り工期も長年月を要すると予測され、更に羽田空港沖合の海底は所により約五〇メートルに及ぶヘドロ層が存在しているため埋立工事の際いかに地盤改良を工夫しても当時の技術水準では完成後の地盤沈下、不等沈下を起す可能性もあるため維持管理に問題があつた、③周辺に臨海工業地帯があるためスモッグが発生することが予想された、④羽田空港は北側・西側に東京都区内の人口密集地帯があり、西南側には川崎工業地帯の石油コンビナートがあるため、北側及び西側は航空機騒音の問題から、南西側についてはこれとともに災害防止の観点から、羽田空港の出発、進入経路をこの方向にとることができず、そのため東南から北西の方向へ向けて設置されている主滑走路から北西方向へ飛び立つた航空機は離陸直後右旋回を余儀なくされ、また在日アメリカ軍等のブルー・フォーティーンが横須賀から、荏田、大宮にかけて設置されているため、空域・管制上の面から西側に羽田空港の出発・進入経路を採ることは困難であり、立地条件上著しい制約を受けていた。そのため新滑走路を羽田沖に設置しても、新空港に必要な離着陸処理能力を得ることができない、という問題があつた。次に、東京湾中北部の木更津沖、浦安沖案については、⑤右④のとおり羽田空港の進入・出発経路は北西・西南側に直接設定することができないため、ほとんど東京湾方面(特に木更津方面)に設定してあつたが、東京湾中北部に新空港を設置した場合には羽田空港と両立しないおそれがあつたところ、本件各処分時までの羽田空港に対する投資は莫大な額に上り、また年間一七万五〇〇〇回という離発着能力をもち、都心と極めて近い場所に位置し、各種施設も備わつていることからこれを廃止することは非常に不利益と考えられた、⑥東京湾中北部に新空港を設置しても、羽田空港拡張案の④と同様人口密集地帯及びブルー・フォーティーンを避けて出発・進入経路を設定しなければならないため新空港の離着陸処理能力は四分の三程度に低下することが予想された、⑦埋立候補地の周辺に五井、姉ケ崎の臨海工業地帯をはじめとして広大な工業地帯が計画されており将来スモッグ等の発生が予想された、⑧漁業補償に困難な問題がある、⑨その他羽田空港拡張案の①、②と同様の問題があつた。

右認定の事実によれば、被告が本件事業認定に当たり右各候補地については問題があるとの認識のもとに本件起業地がより新空港用地に適しているとの判断に立つて本件処分をしたことは合理的であるというべきである。

(2)  これに対し原告らは、①について空港計画が港湾計画により一方的に排除される理由はないと主張するが、東京湾における船舶の出入航路や港湾施設ないし港湾計画に影響を与えることは、右拡張案が採用されなかつた理由の一事由にすぎず、港湾計画を一方的に優先して扱つたものでないことは前認定のとおりであり、同案の採否を決するに当たり右のような事情を諸々の要素の一つとして斟酌することが許されないものではない。原告らの主張は理由がない。次に原告らは②について建設技術上の問題はないと主張するが、これに副う証人楢林の証言は同人が特別土木技術の知識経験のないことは同証言により明らかであるから直ちに採用できず、また<証拠>により認められる昭和四二年の羽田拡張案は滑走路を一本増設し、また現存の滑走路を九三〇メートル延長するものにすぎず、その埋立規模は全く異なるので本件空港程度のものの埋立工事の能否の参考にできないことは明らかである。また前掲甲第一〇三号証には埋立てが容易であるとの記載があるが、<証拠>及び前記認定のとおり運輸省の判断が省内の土木技術専門家の判断を経ていることを総合すると、右甲第一〇三号証の記載は直ちに採用することができず、他に被告の右判断が誤つていたとするに足りる証拠はない。また前記③、④、⑥ないし⑧の判断が本件各処分当時の判断として誤つていたと認めるに足りる的確な証拠はない。⑤について原告らは被告の主張は航空科学的検討に基づかぬ机上の空論にすぎずあるいは航空管制上時代遅れの判断にすぎないと主張し、証人楢林の証言中にはこれに副う部分がある。しかしながら<証拠>によれば本件各処分当時はいまだ集中管制が一般的に行われていたわけではなく、また民間空港同士の集中管制は日本では当時行つておらずすぐにこれを行うべき素地もなかつたこと、それゆえ東京湾内に新空港を設置することを主張する者はむしろ羽田空港の廃止を前提とするのがほとんどであつたことが認められ、これらの事実と前記④のとおり羽田空港自体立地条件上大きな制約のあつたことを考え併せると、⑤の判断も当時の技術水準から誤つていたとはいえない。

また原告らは本件空港を推進した場合に比し、羽田沖拡張案の費用が格段に安い旨主張するが、これに副う原本の存在及び成立に争いのない甲第一〇八、第一一六号証の記載は数額の根拠、出所に不明確なところがあつて直ちに採用できず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

(三) 前記の羽田空港の拡張又は沖合移転ないし東京湾中北部海域以外には原告らは新空港の最適地を指摘していない。

してみると、本件各処分時の管制・土木等の技術、超大型機・超音速機の就航が迫り新空港の早期開港が必要とされていた事情及び当時の騒音に対する社会的・法律的規制等の社会情勢等を前提とすれば、新空港の設置場所として三里塚地区よりも著しく優り被告の判断を社会通念上著しく不相当ならしめる程の最適地が存在していたものとは認定することができず、従つて、本件各処分には裁量を濫用ないし逸脱した違法はないといわざるをえない。

6次に原告らは本件各事業認定には起業地自体欠陥があると主張するので検討する。

(一)(1)  まず原告らはB滑走路はA滑走路の代替滑走路として短かすぎ、またそれ自体としても短かすぎると主張する。

(2)  しかしながら、本件空港にはA、B滑走路の外三二〇〇メートルの横風用滑走路(C滑走路)が存在することは当事者間に争いがなく、前掲乙第一一号証により認められる必要滑走路長に照らすと、夏期高温の最大重量でない通常の場合にはC滑走路によつてほとんどA滑走路に代替させうることが認められる(2(三)(2))。また、同号証によればDC―八等の機種の夏期高温時・最大着陸重量時における必要滑走路長は一八八〇メートルないし二四〇〇メートルであり、離陸の場合でも遠距離の太平洋横断路線及び北回りヨーロッパ線等以外の全体の六二%に当たる路線、例えば香港路線の場合は、DC―八等の夏期高温時・最大離陸重量のときの離陸必要滑走路長は一九四〇メートルないし二四五〇メートルであることが認められる。以上のように二五〇〇メートル滑走路で全離着陸のうち約八一%について使用可能なのであるから、主滑走路のうち一本は二五〇〇メートルで足りるとした公団及び被告の判断に誤りはない。

(二)(1)  次に原告らは本件起業地中に進入灯及びミドルマーカーを設置すべき用地を含めなかつた瑕疵があると主張する。A滑走路南側では本来滑走路末端から九〇〇メートルにわたり進入灯が、更にこの末端から一〇五〇メートルの位置にミドルマーカーが設置されるべきところ、この設置予定地が任意買収により取得できないとしてこれが七五〇メートル本件起業地内へ移動して敷設されていること、そのためA滑走路は(南(34方向)からは)三二五〇メートルの長さしかないこと、また航空保安施設予定地は本件事業認定時に確定していたことは当事者間に争いがない。

(2)  しかしながら、飛行場と航空保安施設とは別個に事業認定の対象となりうるものであることは先に説示したとおりであり、証人河野、同末沢の各証言によれば被告は右航空保安施設の設置予定地について公団が任意買収する旨の説明を受けて本件各処分をしたものであることが認められ、本件各処分後に前記のような事情で暫定的に進入灯及びミドルマーカーが本件起業地内に設置されたからといつて本件各処分が違法となるいわれはない。よつて原告らの右主張は失当である。

(三)(1)  次に原告らはパイプライン用地を本件起業地に含めなかつた違法があると主張する。一般に空港は需要に応じられる航空燃料供給体制を整える必要のあること、公団の燃料輸送計画の内容は当事者間に争いがない。

(2)  しかしながら、パイプラインはいわゆる飛行場の概念には含まれないと解されるから、収用法及び特措法上必ずしも起業地の中に含め事業認定の対象としなければならないものではなく、任意取得の方法によることも差し支えないことはいうまでもない。証人末沢、同城野の各証言によれば、被告は本件各処分時に公団からパイプライン用地については任意取得するとの説明を受け、タンクローリー車等による燃料輸送方式も可能であるから必ずしも空港にパイプラインが必要不可欠なものではないと判断して本件各処分をしたことが認められる。本件各処分時における被告の右判断を誤りとみるべき証拠はないから、原告の右主張も理由がない。

7以上によれば本件各申請は収用法二〇条三号、特措法七条三号の要件を満たしていたものというべきである。

七  収用法二〇条四号の要件について

1収用法二〇条四号は申請に係る事業が「土地を収用し、又は使用する公益上の必要があるものであること。」を事業認定の要件としているが、同号の趣旨は、当該事業が当該土地を収用し又は使用する公益上の必要があることを要件とするものと解される。そこで本件事業の公益性、必要性につき検討する。

(二) <証拠>によれば次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

昭和三〇年代から世界の航空輸送量は、経済の成長、国際的交流の進展、航空機材の技術革新等を背景に目覚ましい発展を示し、ICAOの定期航空会社を対象とした統計によれば、昭和三二年から同四二年までの旅客、貨物・郵便物に関する国際輸送量の実績は別表五のとおりであつた。また我が国の航空輸送実績は別表六のとおりであり、その国際航空輸送量(旅客、貨物・郵便物)は世界の国際航空輸送量の伸び以上の伸びを見せ、昭和三二年度から同四二年度までの年平均伸び率(対前年増加率)は旅客31.4%、貨物・郵便物34.1%、併せて31.5%という高率であつた。そしてこれに伴い羽田空港における国際線定期便発着回数も別表七のとおり増加していた。

以上の推移を踏まえ公団において経済の成長度等航空輸送需要を支配する一般的要因及び技術革新に伴う航空機材の大型化と高速化による航空輸送の変革等の要因を考慮して東京地区における国際線定期便の将来における旅客数、貨物・郵便取扱量、発着回数を推定すると、前記のとおり昭和五一年度の乗降旅客数は五四〇万人、発着回数は六万七〇〇〇回、同六一年度の乗降旅客数は一六〇〇万人、発着回数は一八万一〇〇〇回と推定された。

更に航空輸送は質的にも急激な発達を見せ航空機材の大型化・高速化が進展し、本件事業認定当時、我が国の国際線には昭和四五年にジャンボジェット、同四七、八年にはエアバス及びコンコードの就航が予定されていて、超大型航空機及び超音速航空機による大量輸送、高速輸送の時代が迫つていた(超大型機の就航が目前に迫り、近い将来超音速旅客機の出現が予測されていたことは当事者間に争いがない。)。

しかしながら、東京近辺で唯一の国際空港であつた羽田空港の離着陸処理能力はA、B、C三本の滑走路を完全に使用したときで一七万五〇〇〇回(IFR(計器飛行方式)時一時間当たり最大発着回数は四〇回と考えられ、一日の発着回数はピーク時一時間当たりの発着回数の一二倍と推定するのが妥当であるから四〇×一二×三六五=一七万五〇〇〇回となる。)が限度であるが、駐機場が不足していたためA滑走路の一部を駐機場として使用していたので(この事実は当事者間に争いがない。)、同滑走路の使用可能滑走路長は一三〇〇メートルにすぎず、プロペラ機の離陸のみに使用されていた。またB滑走路は滑走路長が短かいためジェット機の滑走路として使用できず(この事実は当事者間に争いがない。)、かつ、ILS(計器着陸用施設)の設備がなかつたため、天候により発着に相当の制約があり、そのため当時ジェット機の滑走路としてはC滑走路(三一五〇メートル)のみが使用されており、昭和四四、五年の離発着処理能力は年間一三万八〇〇〇回と見込まれていた。また羽田空港の場合は南側から進入してくる航空機が多いが、これらの航空機は南風の場合、風に対向するために北に回り込んで着陸しなければならず、進入の途中で羽田空港から南向きに出発してくる航空機と同じような高度で交差することになるため、安全対策上離着陸の間隔を少し延長する必要があり、南風の多い夏場は特に離着陸処理能力が下落するという問題があった。このように本件事業認定時の羽田空港の離着陸処理能力は年間一三万八〇〇〇回程度であり、仮にA、B、Cの滑走路を完全に使用できても年間一七万五〇〇〇回が限度であつたところ、前記の需要予測によれば、一七万五〇〇〇回処理できるとしても昭和四五年ころまでに限界に達すると推定された。また本件事業認定時以降国際線で使用され又は使用される予定であつたDC―八、B―七四七、コンコード等の機種の夏期高温時・最大離陸重量時の必要滑走路長は三二九〇ないし三八一〇メートルであつて、羽田空港で最も長いC滑走路でも対応することができなかつたから、温度により航空機の重量制限をし、各航空会社は油の搭載量や貨物の積載量を減らす等の措置を講じて離着陸していた。なお、羽田空港は各国の主要国際空港と比べると滑走路の長さ、数、敷地面積の点で既に最小規模といえるものであつた。

右のような事情から、東京地区における長期の航空需要に対応し、かつ将来国際航空路線で出現する新機種を受け入れるため、新たに国際空港を建設することが必要であり、新空港を建設しなければ東京の政治的経済的活動に重大な支障を与え、ひいては我が国の国際的地位・信用にも影響を及ぼすものと判断されたのであつた。

右認定の事実によれば、本件各処分当時本件空港建設の必要性が顕著に認められたことは明らかであり、本件事業のため本件起業地を収用する公益上の必要性のあつたことが認められる。

2(一)  これに対し原告らは、被告は航空需要の予測につき公団提出の資料を鵜呑みにし実質的審査を放棄した違法があると主張する。

しかしながら証人末沢の証言によれば、被告は本件事業認定に際し公団の行つた需要予測について「基礎需要」等の資料と説明を求めて検討した結果その予測が妥当であると判断して右処分をしたことが認められるから原告らの主張は理由がない。

(二)  原告らは被告の旅客数予測は杜撰であると主張する。

被告の主張する旅客数の予測は日本人旅客数については国民総生産との相関関係から係数を求める方法によってされ、外国人旅客数については北大西洋線についてのICAOの予測による伸び率を用いてされていることは当事者間に争いがない。

まず原告らは、日本人旅客の増加は大型機材の登場と低運賃の導入によるもので国民総生産と相関関係が認められないから不当であり、またこれのみを基礎とすることは誤りであると主張する。しかしながら、<証拠>によれば、需要予測をする場合国民総生産と相関させこれを説明関数とすることは通常一般に行われている手法であり、本件において昭和三一年度から同四一年度の日本人旅客数と国民総生産から求めた指数相関式の相関関数は0.993と極めて高いこと、そして同四二年度については実績と理論値がほぼ一致したことから特段の修正を加えずに予測したことが認められ、右手法は合理的というべきであるから、原告らの主張は採用できない。

次に外国人旅客数の予測について、原告らは国民総生産の伸び率を基礎とする日本人旅客数の予測との間に整合性がみられず、また北大西洋線の実績とほぼ同様の推移を示しているとはいえないと主張する。しかしながら外国人旅客数の動向は日本の国民総生産の伸びと直接関係がなくむしろ国際間の航空輸送の動向を反映させるべきであるとの被告の主張は首肯しうるし、<証拠>によれば昭和三一年から同三六年まで、同三六年から同四一年の年間平均伸び率、同三一年から同四一年度までの実績の伸びは北大西洋線と我が国の外国人乗降客数との間でほぼ同様の推移を示していることが認められるから公団の予測手法は合理的であり、原告らの主張は理由がない。

(三)  次に原告らは、発着回数の予測は航空会社が空席を覚悟してシェア確保のため飛ばしている飛行数までも算入し、かつ、一機当たりの搭乗人員数の推定に当たり超大型機の導入を捨象しており杜撰であると主張する。

しかしながら、<証拠>によれば、発着回数の予測は航空機一機当たり搭乗人員の実績の動向に昭和四五年から大型機が導入されるものとして日航及び外国航空会社の航空機材の計画を基にした航空機の機種別構成を加味して航空機一機当たり搭乗人員を推定し、これと推定乗降旅客数から発着回数を求めたものであることが認められるから(以上の事実は日航及び外国会社の航空機材の計画をもとにしたとの点を除き争いがない。)、右予測の方法は合理的なものというべきである。原告らの右主張は理由がない。

(四)  原告らは羽田空港は本件局長通知の枠内でほぼ納まる発着回数で運用されており航空法上安全かつ所定の需要に対して十分に機能していたと主張する。

しかしながら<証拠>によれば、羽田空港の離着陸回数は昭和四四年度は約一五万二〇〇〇回、同四五年度には約一六万四〇〇〇回となり既にほぼその離着陸処理能力の限界に達していたこと、そのころから着陸時の上空待機、発進の遅延等の現象が現われ、夏場等は着陸に平均して一〇分から一五分位の遅れが出て出発便が一時間程度遅れるようなこともあつたこと、そこで運輸省航空局は羽田空港における発着回数はおおむね一日四六〇回を限度とする、国内定期線を一定の範囲で減便する、羽田空港の発着が混雑している場合には名古屋空港に一時着陸して地上待機する等の厳しい内容をもつ本件緊急指示を発し、同四六年八月一九日には本件局長通知を発し、同四七年一一月一四日にも一日当たりの定期便発着回数を四四〇回にするよう航空会社等に要請し発着回数を抑え、そのため潜在的な需要も見込まれていたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はないから、現実に本件局長通知の枠内で運用されていたからといつてその需要に対し十分に機能していたとはいえない。よつて、原告らの右主張は失当である。

(五)  原告らは羽田空港の乗降客の七割以上は国内線の乗客であり発着機の三分の二以上が国内線であつたから、羽田空港が過密であつたとしてもその原因は国内線の需要増大によるものであり、国内航空交通は輸送機関の中で大きな役割を果たしておらず鉄道に比し約一〇倍のエネルギーを消費することからすると、むしろ国内線の需要を調節することにより新空港の建設の必要性を著しく減少させることができたと主張する。

しかしながら、航空は最も迅速な交通、運輸の手段として社会的、経済的に重要な機能を有し、長距離輸送や離島間の輸送等に不可欠かつ公共性の高い交通手段であることは公知の事実であるから、政府においてこれが国内需要を抑制することは困難であるのみならず、需要抑制策を採用すること自体各方面に問題を生ずることはみやすいところであり、そのような施策を採らないからといつて、新空港建設の必要性が減少するものとはいえない。よつて原告らの右主張は失当である。

(六)  原告らは海外渡航者の急増の原因は国が航空会社等に対してとつてきた保護政策により生み出された異常に低廉な航空運賃によるもの、あるいは航空会社等により人為的に作出された需要であるから公益性を検討する際考慮すべきでないと主張する。しかしながら、仮に航空需要の増加の一端に右のような原因があつたとしても、これがため公益性を損うものとはいえない。また原告らは韓国・東南アジアへの男性観光客について云々するが、これも新空港建設の公益性を否定するものではない。よつてこれらの原告らの右主張もまた理由がない。

(七)  原告らはまた本件空港建設は騒音公害の発生を表象認容したもので犯罪性を帯び、公共性、公益性を認めることは許されないと主張する。

しかし騒音公害の有無・程度等は、三号要件である土地の適正かつ合理的な利用に寄与するか否かを判断する際の一要素として斟酌すべき問題であり、騒音の発生がありうるからといつて直ちに公共性、公益性を欠くものとはいえない。よって原告らの右主張は失当である。

(八)  原告らは本件各事業は適地判断を誤り、農業最適地を潰廃し、農民の生活や農業更には農村共同体そのものを破壊するから公共性を認められないと主張する。

しかしながら、本件各事業の適地判断が誤りといえないこと、農地の潰廃により失われる利益よりも新空港建設により得られる利益の方が大であるとした被告の判断が誤りといえないことは前示のとおりであるから原告らの主張は採用できない。

(九)  原告らは本件各事業は千葉県北総一帯等を騒音・排油・汚排水等の公害地帯として農民・住民の身体を破壊し、土地を収奪し生活を根底から破壊し、地域社会を絶滅させるほどの反公共的、反社会的事業であると主張する。

しかしながら、騒音以外の公害については原告ら主張に一部副う前掲甲第二〇一号証の中島忠作成部分があるもののその程度等についてはにわかに首肯することはできず他にこれを認めるに足りる的確な証拠はなく、本件事業が農民・住民の身体・生活を破壊し、地域社会を絶滅させる事業であると認めるに足りる証拠はないし、これら公害についても騒音公害と同じく収用法二〇条、特措法七条の各三号要件を判断する際に斟酌すれば足りるものであるから、原告らの右主張は失当である。

(一〇)  原告らはまた本件空港は軍事利用目的を持つか少なくとも潜在的軍事空港であるから憲法九条に反し公益目的に違背すると主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はないから失当であること明らかである。

3以上のとおり原告らの主張はすべて失当である。そして<証拠>によれば、公団は昭和四四年八月末時点で本件事業のため取得することが必要な民有地約六七〇ヘクタールのうち約75.1%を買収していたが、残りの土地所有者で新空港の建設に反対する者達で結成した反対同盟に属する者等との間の買収交渉は極めて難航していたことが認められるので、本件事業のため本件起業地を収用する必要があつたものというべきであり、収用法二〇条四号の要件を満たしていたものといえる。

八  特措法七条四号の要件について

1特措法七条四号は特定公共事業認定の要件として「事業が公共の利害に特に重大な関係があり、かつ、緊急に施行することを要するものであること。」と規定している。

ところで七1(二)、2(四)認定の諸事実、特に本件特定公共事業認定時に航空機の大型化が進行しつつあり、また近い将来の高速化も予測されていたのに、東京近辺の唯一の国際空港である羽田空港は質的にこれに十分対処する能力がなかつたこと、また量的にも羽田空港は航空需要の増大により昭和四四年ごろにはほぼ離着陸処理能力の限界に達し、着陸時の上空待機、発進の遅延等の現象が現われ、そのため運輸省航空局は発着回数を一日四六〇回を限度とする等の緊急指示を発し、そのため航空会社は減便等の非常措置をとらざるをえなくなつたこと、並びに<証拠>により認められる昭和四六年度には羽田空港はB滑走路の延長(二五〇〇メートル)及びILSの設置によりその年間離着陸処理能力は約一六万回に増加するものと推定されていたものの、同年度の推定発着回数は約一九万九〇〇〇回に達しその後も増加するものと推定されていたことからすると、右のような事態を解消し、航空輸送及びその安全性を確保し、また航空機の大型化・高速化に対処するため、本件第一期事業を緊急に施行し新空港の供用を開始する必要があつたものというべきである。

2(一)  原告らはこれに対し本件第一期事業については、航空燃料輸送、交通連絡手段、空域分離調整、航空保安施設用地の確保状況から、本件特定公共事業認定時には起業地を強制的に収用しても空港を直ちに完成し供用を開始できる見込みはなかつたから特措法七条四号の要件を欠くと主張する。

本件特定公共事業認定が行われたのは昭和四五年一二月であり、公団の航空輸送計画の内容、パイプラインの埋設計画の発表があつたのは同四六年八月であつたこと、住民の一部に反対運動があり、同五二年九月に至りいわゆる暫定輸送の合意が成立したこと、同五三年五月本件空港が開港したことは当事者間に争いがなく、右事実と<証拠>によると右開港の遅延の最大の原因は燃料輸送問題であつたことが認められる。

しかしながら証人城野の証言によれば、被告は本件特定公共事業認定の際公団から右パイプライン用地は収用手続によらず確保する方針であるとの説明を受け、道路局の占用許可担当者からも説明を聴取しこれが可能であると判断したことが認められるので、当時航空燃料輸送を確保する見通しがなかつたとはいえない。のみならず、本件第一期事業を緊急に施行する必要があつたことは1に認定したとおりであるところ、<証拠>によれば、公団は昭和四五年三月三日から同年一二月一五日までに合計一七〇件三九八筆の土地につき権利取得裁決の申請を、同年三月三日から同四八年一一月三〇日までの間合計一五〇件三三八筆の土地につき明渡裁決の申請をしたが、このうち昭和四五年一二月二六日までに収用委員会の権利取得裁決及び明渡裁決がされたのはわずか六件六筆にすぎず、その後本件特定公共事業認定、緊急裁決、行政代執行を経て本件第一期事業に係る起業地を取得したものの、その余の大部分の土地についてはいまだに収用委員会の裁決がされず、もとより公団も所有権を取得していないことが認められる。従つて仮に本件特定公共事業認定がされなければ昭和五三年五月に開港することは到底困難であつたものというべきであるから、本件第一期事業を緊急に施行する必要があるとして本件第一期事業に係る起業地取得のためにした本件特定公共事業認定には原告ら主張の違法はないものというべきである。

(二)  次に原告らは①航空需要の予測に大幅な誤りがあり、②国内線との調整により国際線の需要をカバーできる態勢にあつたから、羽田空港は過密ではなかつたと主張する。

しかし①について当初の需要予測が不合理とはいえないこと、②の主張が理由のないことは前説示のとおりであり、更に羽田空港の輻輳緩和対策として昭和四六年九月一日本件局長通知が発せられ同四七年一一月四日に航空局長の協力要請があつたこと、そのため潜在的需要が存在したことは前記のとおりであるから、羽田空港は本件特定公共事業認定時過密であつたことが明らかである。

よつて原告らの右主張は理由がない。

(三)(1)  次に原告らは羽田空港が仮に過密であつたとしてもそれは故意又は重大な過失に基づき自ら招いた危難か技術的改善を怠つた結果生じたもので緊急性を基礎付けえないと主張するので検討する。

(2)  まず原告らは羽田空港が不当に拡張されなかつたと主張する。

昭和三八年には航空需要予測の概略は判明しており、運輸省としては航空需要の伸びに対する方策を講ずべき立場にあつたこと、羽田空港の拡張案は本件事業認定時以前にたびたび提案され、昭和四二、三年ころには日本航空機長会がB滑走路の延長を提案したこと、同四二年一二月ころ運輸省がC滑走路に平行して三〇〇メートル滑走路を新設することを骨子とする羽田空港拡張案を計画し、大蔵省と折衝を重ねたが、結局B滑走路を二五〇〇メートルに延長する計画が承認されたこと、同四五年五月か一〇月ころ航空政策研究会が東京湾埋立てにより羽田空港の総面積を一九〇五ヘクタールに大拡張し、年間の処理能力を四四万回とする羽田空港拡張案を提案したことはいずれも当事者間に争いがない。原告らは更に昭和四五年五月訴外秋山龍が「朝日世界空港シンポジュウム」で敷地をほぼ倍以上に増加させる羽田空港拡張案を提案した旨主張するが、右秋山が原告ら主張の提案をしたことを認めるに足りる証拠はない。また昭和四五年の航空政策研究会の提案についてはその後同研究会自身年間二四、五万回程度が限度である旨訂正したことは先に認定したとおりである。

原告らは運輸省はこれらの案に従い羽田空港を拡張できたにもかかわらず航空政策の杜撰さ、体系性の欠如が原因で羽田空港の拡張を不当に怠つた結果発着回数の制限等をすることになつたと主張する。

しかしながら、前記認定のとおり新空港は、超大型機や超音速機が就航し又はその出現が予測され、かつ、航空需要の増大の結果、羽田空港の能力が近い将来に限界に達することが予測されたことから、羽田空港拡張計画案をも含めて種々の案を比較検討した結果、東京地区における長期の航空輸送需要に対応し将来における主要な国際航空路線の用に供することを目的として新たに建設されることとなつたのであるが、羽田空港の拡張では対処しきれないこと、羽田空港拡張案自体に諸々の問題を含むことは先に認定したとおりであるから、羽田空港の拡張がされなかつたことは右緊急性を認める妨げにはならないものというべきである。なお<証拠>によれば、昭和四一年六月二二日佐藤首相が友納知事に対し新空港の三里塚設置につき協力を求めた際に知事は総理に対し「不測の事態を避けるため、羽田空港の拡張を並行して行うべきこと」を要望し、首相はこれを了承したことが認められるが、<証拠>によれば、右は、富里案の規模が半減することによる能力減を羽田空港の拡張で補つてほしいとの趣旨であつたことが認められるから、前記結論を左右するものではない。

(3)  次に原告らは運輸省はB滑走路を延長せず、A滑走路の使用を中止し故意に羽田空港の処理能力を低下させたと主張する。本件特定公共事業認定時いまだB滑走路は一五七〇メートルで短かくジェット機の滑走路としては使用できなかつたこと及びA滑走路の一部を駐機場として使用していたことは当事者間に争いがない。

しかしながら、<証拠>によれば、A滑走路については駐機場の不足を補うためやむなくその一部を駐機場として使用することとしたことが認められ、運輸省において故意に羽田空港の能力を低下させたと認めるに足りる的確な証拠はない。またそもそも昭和四六年度にはB滑走路を二五〇〇メートルに延長しILSを設置する計画であつたがこれでも処理能力は約一六万回になるにすぎず、またA、B、C三滑走路を完全に使用しえたとしてもその処理能力は一七万五〇〇〇回程度であつたことは前記認定のとおりであるから、前記認定の需要予測に照らすと右A、B滑走路の使用状況は、本件特定公共事業認定の緊急性を否定すべき理由とすることはできない。

(4)  原告らはまた羽田空港の発着回数の制限等の措置は、着陸能力の限界によるものではなく、スポット数の不足等、エアリアル・ナビゲーションやARTSⅣを取り入れない等管制方式の技術的改善の懈怠に基因すると主張する。

しかしながら、前記認定のとおり仮に羽田空港のA、B、C三滑走路を完全に使用しえたとしてもその処理能力は予測された需要以下の一七万五〇〇〇回にすぎなかつたのであるし、また<証拠>によれば、原告らの主張するエアリアル・ナビゲーションもARTSⅣもいずれも本件特定公共事業認定時にはごく近い将来実用化されるであろうと予測される段階ではなかつたことが認められるのであるから、原告らの右主張も失当である。

3よつて原告らの主張はいずれも理由がなく、本件第一期事業は特措法七条四号の要件を満たすものというべきである。

九原告らは本件各処分には重大な手続的瑕疵があると主張するので以下逐次検討する。

1(一)  原告らはまず本件事業認定手続には航空法の定める公聴会の開催を怠つた違法があると主張する。

しかしながら、右主張の理由がないことは既に四2で説示したとおりである。

(二)  原告らは本件各処分は無価値にして非科学的な本件答申に依拠していた違法があると主張する。

しかしながら、証人末沢、同城野の各証言によれば本件答申は本件各処分をする際参考とされた資料の一部にすぎないものであつて、本件各処分は被告独自の判断と責任でされたものであることが認められるから、本件答申の内容いかんが本件処分の適法性に影響を与える余地はない。

のみならず、前記認定のとおり航空管制、気象条件等の立地条件につき比較検討した上本件答申をしたものであるから、これが無価値、浅薄、非科学的であるとはいえない。

よつて原告らの右主張は失当である。

(三)(1)  次に原告らは本件各処分には専門的学識経験者の意見聴取及び公聴会を拒否してした違法があると主張し、被告が本件各処分に当たり専門的学識経験者の意見を聴取せず、また公聴会も開催しなかつたことは当事者間に争いがない。

(2)  収用法二二条は、被告は「事業の認定に関する処分を行おうとする場合において必要があると認めるときは、申請に係る事業の事業計画について専門的学識又は経験を有する者の意見を求めることができる。」とし、同法二三条一項は、被告は「事業の認定に関する処分を行おうとする場合において必要があると認めるときは、公聴会を開いて一般の意見を求めなければならない。」としているが、両条ともその必要性の判断を専ら事業認定機関である被告の裁量にゆだねていることはその文言上明らかである。

ところで新空港は我が国で初の民間空港の建設であり、ジャンボジェット等により航空輸送の大量・高速化が進められているため、かつての空港と異なり抜本的な変革がされるべきこと、大規模な国家的事業として計画され、広大な土地と巨額の資金をもつて建設されるので、一部航空関係者、政府関係者の独断によるものではなく、国民すべてにとつて重大な関係を有するので本件事業認定に当たつては航空に関する多方面の意見や情報が必要であること、新空港建設に対しては反対が強かつたから、被告としてもこれらの反対者の意見に虚心に耳を傾けるべきであつたこと及び社会党所属国会議員等が被告に対し公聴会開催及び学識経験者の意見聴取等を申し入れたことは当事者間に争いがない。

そして新空港の設置に当たつては本件答申を受け、航空行政の所管庁であり専門的地位にある運輸省において昭和三七年ころ以来十分に検討したものであることは前記認定のとおりであり、前掲乙第一号証によれば、飛行場の具体的設計について公団は航空関係各界の学識経験者等からなる空港計画委員会に諮問し、その報告に基づいて作成したものであり、また前掲甲第一七号証によれば昭和四二年一月一〇日航空法に基づき本件工事実施計画の認可に関する公聴会が開催され亡戸村外三五名の意見陳述が行われたことが認められ(右公聴会が開催されたことは当事者間に争いがない。)、証人河野の証言によれば被告としては本件事業認定に当たりこれらの意見を充分に参考にしえたものと認められるから、前記原告ら主張の諸事実を斟酌しても、本件において学識経験者の意見聴取及び公聴会の開催を不要とした被告の判断には到底裁量権の濫用ないし逸脱は存しないものというべきである。

(3)  次に特措法八条は特定公共事業の認定を行う場合に収用法二二条、二三条を準用しているが、同法二〇条の規定による事業の認定を受けている事業に係る特定公共事業の認定については特措法八条の規定は適用しないとしている(同法三九条一項)。本件第一期事業は収用法二〇条の規定による事業の認定を受けた事業の第一期工事に関する事業であることは当事者間に争いがないので、本件特定公共事業認定手続においては同法二二条、二三条が準用されないことは明らかである。

よつて原告らの主張は理由がない。

(四)  次に原告らは本件各処分は公団が業務開始に際し業務方法書の作成及び認可を経ないでした本件各申請の違法を看過した違法があると主張する。公団法二四条は業務開始の際業務方法書を作成し運輸大臣の認可を受けなければならないとしているところ、公団が業務方法書の認可申請をしたのは本件各処分の後である昭和四六年一〇月一日、認可されたのは同年一二月一日であることは当事者間に争いがない。

しかしながら、右業務方法書の認可書は収用法一八条二項六号、特措法四条二項六号の「事業の施行に関して行政機関の免許、許可又は認可等の処分を必要とする場合においては、これらの処分があつたことを証明する書類又は当該行政機関の意見書」に該当するものではないから原告らの右主張は理由がない。

(五)  従つて原告ら主張の本件各処分に共通な違法事由は認められない。

2(一)  原告らは本件特定公共事業認定固有の違法事由として、まず事業に当たらない第一期建設工事を特定公共事業とした違法があると主張する。本件第一期事業が本件事業のうち四〇〇〇メートル滑走路及びこれに対応する諸施設を建設しようとするものであることは当事者間に争いがなく、右第一期事業が本件事業の一部であることは明らかである。

ところで一般に事業認定又は特定公共事業認定の申請に際し任意で取得できる等収用等を求める必要がない土地に係る事業をその認定の申請の対象に含める必要のないことはいうまでもないから、その認定をしうる事業計画の最小の単位(起業地の範囲)は当該事業計画のみによつても供用することが可能であり、かつ公益性を発揮するものであれば足り、必ずしも計画中の事業全体について認定を受けなければならないものではないというべきである。

原告らは特措法二条三号が「第一種空港」としている以上これに「該当するものに関する事業」(同条)とは、新空港建設事業(全体)を指称することは明白であると主張する。しかし、空港建設事業についていえば、同条は「航空法による飛行場……で公共の施設に供するもの」(収用法三条一二号)に関する事業のうち、「第一種空港」に該当するものに関する事業で被告の認定を受けたものが特定公共事業となりうると規定しているのであり、第一種空港に関する事業を一括してその全体でなければ特定公共事業と認定できない趣旨を含むものとは到底解することができない。

そして<証拠>及び前記認定の事実によれば、本件事業は、前記内容の本件第一期事業とB、C滑走路及びこれらに対応する諸施設を建設しようとする第二期事業からなり、本件第一期事業に係る施設、起業地及び工事完成の予定期日は本件工事実施計画の上でも第二期事業と明確に区分して定められているのであり、更に本件第一期事業で建設する四〇〇〇メートル滑走路及びこれに対応する諸施設は緊急に完成することを要し、かつこれらの諸施設自体で新しい国際空港の施設として機能し公益性を発揮しうるものであることが認められるから、本件第一期事業は特定公共事業に当たるものというべきである。

従つて原告らの主張は理由がない。

(二)  次に原告らは本件事業と本件第一期事業は異なる事業であるから、公団が本件特定公共事業認定申請の際特措法四条二項四号ないし六号所定の書類を添付しなかつたのは違法であり、被告は右違法を看過して違法に右の申請を受理し、同法三九条一項を違法に適用して同法八条の規定を適用しなかつたと主張する。公団が本件特定公共事業認定申請をするに当たり特措法四条二項四号ないし六号所定の書類を添付しなかつたが被告はこれを受理したこと、被告は本件第一期事業に対して同法三九条一項を適用し同法八条の規定を適用しなかつたことは当事者間に争いがない。

特措法によれば既に収用法二〇条による事業認定を受けている収用事業についてもそれが特措法七条各号の要件を満たすものである限り重ねて特定公共事業の認定をしうるが、この場合右収用事業の一部だけが収用法の特別法たる特措法において加重された同法七条四号の要件を満たしており、右一部のみでも(一)の意味で特定公共事業になりうるものであれば、右一部の事業について特定公共事業の認定をすることが許されるものと解すべきである。けだし右のような場合には一部について特定公共事業の認定をして事業の施行の促進を図ることができるとするのが、公共の利害に特に重大な関係があり、かつ緊急に施行することを要する事業に必要な土地等の取得に関し収用法の特別法としてこれらの事業の円滑な遂行と損失の適正な補償の確保を図ることを目的とする特措法の趣旨(同法一条)に合致するからである。また特措法において収用法の事業認定の範囲と特定公共事業認定の範囲の一致を要求している規定は存しない。

ところで、収用法二〇条の事業認定を受けている事業に係る特定公共事業の認定については特措法八条、一二条一項の規定は適用しないこととされている(同法三九条一項)。同法八条は収用法二一条ないし二五条を準用するものであるが、特措法三九条一項が同法八条の適用を排除したのは先の事業認定の際にこれらの手続を既に終えており重ねてその手続を取る必要がないからであり、また同法一二条一項の適用を除外したのは、収用法による事業認定がされた事業については既に同法による効果が発生しているので特定公共事業の認定を同法による事業の認定とみなす同条項を適用する必要がないからであると解される。

そこで収用法による事業認定がされた事業の一部について特定公共事業の認定をする場合に特措法三九条一項を適用すると、特定公共事業に係る起業地自体を表示する図面の縦覧が手続上保障されていないという問題が生ずる。しかしこの場合特定公共事業の認定に係る起業地は収用事業に係る起業地の一部であり、従つて収用事業に関して縦覧に供された図面に包含されているものであるから法律上図面の縦覧が全くなかつたとはいえない。そして、特定公共事業の認定があるか否かにより緊急裁決等の制度の適用の有無の差が生ずるが、これらは収用裁決の審理の段階で明らかとなり被収用者の利益を害する余地はない。

従つて公団が特措法四条二項四号ないし六号所定の書類を添付せずに本件特定公共事業認定申請をしたことは同法三九条一項により適法であり、これを受理したことは何らの違法はなく、また同条により同法八条の規定を適用せず本件特定公共事業認定をした被告の処分にも違法はないものというべきであり原告らの主張は理由がない。

(三)  次に原告らは本件特定公共事業認定の事業の説明は特措法三条一項に違反すると主張する。

特措法三条一項は「起業者は、特定公共事業の認定を受けようとするときは、あらかじめ、事業の目的及び内容並びに事業を緊急に施行することを要する理由について、事業を施行しようとする土地……及びその附近地の住民に説明し、これらの者から意見を聴取する等の措置を講ずることにより、事業の施行についてこれらの者の協力が得られるよう努めなければならない。この場合において、住民に対する説明会及びその意見の聴取については、少なくとも建設省令で定める程度の措置を講じなければならない。」とし、右建設省令として特措法施行規則一条一項二号は「会合の場所及び日時を会合を開催する日の一週間前までに、事業を施行しようとする土地及びその附近地の存する地方の新聞紙に公告し、又は住民に文書をもつて通知すること。」、同条二項は、「前項第二号の規定による通知は、少なくとも、当該事業を施行しようとする土地に係る利害関係者……である住民で土地等を提供することについての同意をしていないもの及びその同意がされていない土地等の所在地に隣接する土地に係る利害関係者である住民の全員に対してしなければならない。」と規定している。本件についてこれをみるに、<証拠>によれば、公団は昭和四五年一〇月八日本件特定公共事業認定に係る起業地及びその周辺地を対象として同月一六日の事業説明会開催公告を千葉日報、毎日新聞、朝日新聞、読売新聞に掲載して公告したことが認められ(右事実のうち、公団が昭和四五年一〇月八日新聞に「事業説明会公告」を掲載したことは当事者間に争いがない。)、右事実によれば右公告は特措法三条一項、同法施行規則一条一項、二項の要件を満たすものというべきである。

また<証拠>によれば、公団は昭和四五年一〇月一六日午前一〇時から正午まで千葉県成田市大字三里塚字御料牧場一ノ二六で説明会を開催し、事業の目的、内容、事業を緊急に施行することを要する理由を説明し、更に翌一七日には説明会に参集しなかつた住民のために事業の目的、内容、事業を緊急に施行することを要する理由その他を記載した「特措法第三条の規定に基づく説明会資料」を各紙朝刊に折り込み配付したことが認められこれを覆すに足りる証拠はないから、事業説明会自体適法にされたものというべきである。

よつて原告らの主張は理由がない。

(四)  次に原告らは本件特定公共事業認定申請の事業計画に不備があると主張する。

まず原告らは本件特定公共事業認定申請書添付の事業計画書中の事業計画の記載が具体性、明確性を欠くと主張するが、特措法施行規則三条一号イによれば事業計画書には事業計画の概要を記載すべきものとされるところ、<証拠>によれば前記事業計画書中には本件第一期事業に係る事業計画の概要が明らかに記載されていることが認められるので原告らの右主張は理由がない。

次に原告らは右事業計画書の事業の完成時期について不適法かつ虚偽の表示があると主張する。右事業の完成時期が昭和四六年六月三〇日と表示されており、同四二年一月三〇日認可・告示された本件工事実施計画によれば「滑走路A及びこれに対応する諸施設」についての供用開始予定期日が同年四月一日と記載されていることは当事者間に争いがなく、航空法の建前上建設事業の完了後供用開始期日が定められるのは原告ら主張のとおりであるが、供用開始予定期日は後に変更可能であり、右事実をもつて本件の申請が違法となるものとは解されない。

更に原告らは右事業計画書の完成期日の表示は事実と著しく異なる虚偽の表示であると主張するが、完成時期の記載が客観的事実に反し、公団が本件の申請当時から昭和四六年六月三〇日に本件第一期事業が完成する見込みがないことを十分に認識していたとの原告らの主張事実はこれを認めるに足りる的確な証拠がない。

よつて原告らの主張は失当である。

(五)  原告らは本件の事業計画に著しい変更があつたと主張する。昭和四六年一月一九日公団総裁が本件空港の開港と同時に日航の成田―大阪線等国内線も乗り入れ、本件第二期工事で国内線関係のターミナルビルも建てる計画である旨を発表したとの新聞報道がされたことは当事者間に争いがないが、一部の国内航空路線の乗り入れが国際航空旅客の乗継ぎの利便のため心要な範囲内で行われるものであれば事業計画の著しい変更に当たらないことは明らかであるし、本件第二期工事の計画については本件特定公共事業認定の適否に関係がない。

よつて原告らの右主張も理由がない。

一〇原告らは起業者が権利取得裁決と明渡裁決とを併せて申請している場合でも事業認定告示の日から四年以内に収用委員会による収用裁決のない場合には収用法二九条一、二項の趣旨を類推し、事業認定の効力が失われたと解すべきであり、本件においては本件第二期工事区域については現在に至つても収用裁決がされていないから右土地についての事業認定は将来に向かつて失効し、また残りの土地についてはこれらの土地のみでは事業認定の目的を達することは不可能であるから、これらの土地に関する事業認定については取消原因が生じたものと解すべきであると主張する。

しかしながら、事業認定の失効というような収用手続上重要な事項については法の明文の根拠なくしてみだりに拡張解釈すべきでないことは当然である。収用法二九条一、二項はいずれも起業者が申請を怠つた場合の規定であり、起業者が適法に申請したが収用委員会の裁決がされない場合とは異なるから類推適用する余地はない。原告らの見解によれば、起業者は収用委員会の裁決の遅延というその責めに帰することのできない事由により事業認定の失効という極めて重大な法律上の不利益を受けるという不当な結果を招来することとなる。

また原告らは収用委員会の裁決の遅延により多大の損害を受けていると主張するが、収用する土地及びその土地に関する所有権以外の権利に対する補償金については事業の認定の告示の時における相当な価格に権利取得裁決時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額とするものとされ(収用法七一条)、また土地所有者らは事業の告示があつた後は権利取得裁決の前でも起業者に対し補償金の支払いを請求することができる(同法四六条の二第一項)のであつて、地価騰貴による不利益を免れる制度が立法されており、明文の規定なしに収用権の失効を認める根拠とはなりがたいものである。

従つて原告らの主張は到底採用することができない。

二以上の次第で別紙目録(一)記載の甲事件原告らの訴え及び別紙目録(二)記載の乙事件原告らの訴えはいずれも不適法であるからこれを却下し、その余の甲事件原告ら及び乙事件原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(時岡泰 満田明彦 大鷹一郎)

別紙目録(一)

(1)菅沢とせ、菅沢つる

(2)北原鉱治、萩原進、宮本幸江、長谷川たけ、島寛征、前田輝明、柳川初枝、柳川秀夫、柳川克夫、柳川信子、染谷登、藁科啓次

(3)戸村澄江、戸村和代

別紙目録(二)

(1)菅沢とせ、菅沢つる、熱田一、岩沢吉井、島村良助、藤崎衛、石井武、飯田譲一、岩沢茂、秋葉哲、菅沢専二、小川嘉吉、市東東市、加藤俊宣、小川喜平、加藤清、石橋政次、木内順、木内とく、木内誠、三浦五郎、杉本明秀

(2)北原鉱治、萩原進、宮本幸江、長谷川たけ、島寛征、前田輝明、柳川初枝、柳川秀夫、柳川克夫、柳川信子、染谷登

(3)戸村澄江、戸村和代

別表一

新空港国際線関係基礎需要総括表

区分

単位

羽田実績

新空港推定

年間平均伸び率

41年度

46年度

51年度

57年度

61年度

41~

46年度

46~

51年度

51~

57年度

57~

61年度

乗降旅客数

千人

1,300

2,700

5,400

10,500

16,000

16.6%

15.0%

11.7%

11.7%

貨物・

郵便物取扱量

千トン

50

170

410

860

1,400

28.5

19.5

13.0

13.0

発着回数

千回

21

36

67

121

181

13.6

10.7

10.5

10.5

送迎者数

千人

5,600

4,900

8,100

12,400

16,400

10.4

7.3

7.2

見学者数

千人

3,100

2,600

2,700

2,900

3,000

0.5

1.0

1.0

従業員数

千人

14*

11

20

32

45

9.2

8.6

8.6

給油量

千k?

500

1,100

2,000

3,700

5,500

18.0

13.8

10.5

10.5

*:国内線関係を含む

別表二    羽田空港における乗降客数

区分

乗降客数(人)

国際線乗降

客の割合

国際線

国内線

合計

昭和41

1,629,206

2,648,771

4,277,977

38.0%

42

1,756,324

3,378,733

5,135,057

34.2

43

2,027,679

4,474,608

6,502,287

31.1

44

2,157,189

5,732,529

7,889,718

27.3

45

2,613,502

7,748,724

10,362,226

25.2

46

2,790,809

8,280,393

11,071,202

25.2

47

3,448,803

9,036,545

12,485,348

27.6

48

4,753,439

11,236,701

15,990,140

29.7

49

4,891,992

12,273,141

17,165,133

28.5

50

5,473,019

12,945,917

18,218,936

30.0

51

6,250,938

13,749,840

20,000,778

31.3

52

6,714,738

16,420,034

23,134,772

29.0

運輸省航空局

別表三

羽田空港における定期航空便の発着回数

(昭和37~49年)

年度

昭37

昭38

昭39

昭40

昭41

昭42

昭43

昭44

昭45

昭46

昭47

昭48

昭49

区分

発着回数

国際線

12,010

12,892

15,172

18,010

22,390

33,514

39,800

46,500

48,950

54,050

53,494

51,448

46,472

国内線

44,464

48,662

58,912

80,582

64,428

77,740

86,200

100,000

105,568

116,324

106,024

105,800

104,684

合計

56,474

61,554

74,084

98,592

86,818

111,254

126,000

146,500

154,518

170,374

159,518

157,248

151,156

国際線の割合

(%)

21.3

20.9

20.5

18.3

25.8

30.1

31.6

31.7

31.7

31.7

33.5

32.7

30.7

運輸省航空局

別表四 羽田空港における平均乗降客数と平均発着回数

区分

1機当りの平均乗降客数(人)

1日当りの平均発着回数

国際線

国内線

国際線

国内線

合計

昭和41

62.1

32.1

71.9

226.9

298.1

42

52.4

43.4

91.8

213.5

305.3

43

50.9

51.9

108.7

235.7

344.4

44

46.4

57.3

127.4

274.3

401.7

45

53.0

67.8

135.1

313.1

448.2

46

51.6

71.2

148.1

318.7

466.8

47

64.3

78.8

146.6

313.3

459.9

48

87.2

97.7

149.4

315.2

464.6

49

95.8

101.7

139.9

330.5

470.4

50

105.2

113.6

142.6

307.4

450.0

51

113.0

121.6

151.2

309.0

460.2

52

121.4

145.1

151.6

310.0

461.6

(注)下線部分は減少を示す

別表五

世界の航空輸送実績

区分

航空輸送量(旅客)

航空輸送量(貨物・郵便物)

航空輸送量(旅客・貨物・郵便物)

国際国内計

国際輸送

国際国内計

国際輸送

国際国内計

国際輸送

百万人

キロ

百万人

キロ

百万

トンキロ

百万

トンキロ

百万

トンキロ

百万

トンキロ

昭和32

81,000

14.1

27,000

17.4

2,070

8.9

870

11.5

9,210

12.5

3,320

16.1

33

85,000

4.9

30,000

11.1

2,150

3.9

950

9.2

9,620

4.5

3,670

10.5

34

98,000

15.3

35,000

16.7

2,460

14.4

1,130

18.9

11,010

14.4

4,270

16.3

35

109,000

11.2

40,000

14.3

2,770

12.6

1,320

16.8

12,330

12.0

4,980

16.6

36

117,000

7.3

44,000

10.0

3,200

15.5

1,560

18.2

13,470

9.2

5,520

10.8

37

130,000

11.1

51,000

15.9

3,720

16.3

1,840

17.9

15,100

12.1

6,390

15.8

38

147,000

13.1

57,000

11.8

4,120

10.8

2,110

14.7

16,960

12.3

7,280

13.9

39

171,000

16.3

68,000

19.3

4,810

16.7

2,440

15.6

19,770

16.6

8,550

17.4

40

198,000

15.8

79,000

16.2

6,050

25.8

3,160

29.5

23,440

18.6

10,220

19.5

41

229,000

15.7

91,000

15.2

7,390

22.1

3,890

23.1

27,510

17.4

12,070

18.1

42

273,000

19.2

104,000

14.3

8,590

16.2

4,480

15.2

32,640

18.6

13,850

14.7

別表六

わが国の航空輸送実績

区分

航空輸送量(旅客)

航空輸送量(貨物・郵便物)

航空輸送量(旅客・貨物・郵便物)

国際国内計

国際輸送

国際国内計

国際輸送

国際国内計

国際輸送

百万人

キロ

百万人

キロ

百万

トンキロ

百万

トンキロ

百万

トンキロ

百万

トンキロ

昭和32

568

12.5

234

12.1

11

22.2

9

28.6

59

12.6

32

12.8

33

686

20.8

326

39.3

15

36.4

12

33.3

73

23.7

44

37.5

34

842

22.7

401

23.0

19

26.7

15

25.0

91

24.7

54

22.7

35

1,051

24.8

482

20.2

24

26.3

20

33.3

111

22.0

65

20.4

36

1,680

59.8

754

56.4

39

62.5

31

55.0

177

59.5

102

56.9

37

2,240

33.3

896

18.8

45

15.4

36

16.1

226

27.7

120

17.6

38

3,128

39.6

1,211

35.2

56

24.4

43

19.4

305

35.0

157

30.8

39

3,997

27.8

1,505

24.3

70

25.0

55

27.9

389

27.5

196

24.8

40

4,594

14.9

1,928

28.1

114

62.9

82

49.1

495

27.2

263

34.2

41

5,371

16.9

2,592

34.4

158

38.6

121

47.6

608

22.8

363

38.0

42

6,946

29.3

3,474

34.0

203

28.5

162

33.9

782

28.6

478

31.7

別表七 羽田空港における国際線

定期便発着回数の推移

年度

発着回数

対前年伸び率(%)

昭和32

7,285

14.7

33

7,946

9.1

34

9,733

22.5

35

10,509

8.0

36

11,062

5.3

37

11,912

7.7

38

12,857

7.9

39

14,750

14.7

40

16,688

13.1

41

21,125

26.6

42

26,590

25.9

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